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ブログ / 実践経営戦略ノート

第44話 戦略を変えても、現場が変わらない会社の共通点

2026年8月17日 執筆:渡邉ひとし

【現場が動かないのは社員のせいではない】戦略と実行をつなぐ考え方

「戦略を変えたのに、現場は何も変わらない。」

そう感じている経営者は、決して少なくありません。

経営計画を作り直し、会議で新しい方針を示し、資料も整えたのに、翌週には社員が以前と同じ動き方に戻ってしまう。

会議で頷いていた社員が、翌日には元のやり方に戻っている。

配った資料も、机の引き出しに眠ったままになっていないでしょうか。

説明したはずなのに伝わっていない、この繰り返しに、少し焦りを覚えていませんか。

社員に理由を尋ねても、「忙しくて」という答えが返ってくるだけ、かもしれません。

その言葉の裏には、もっと根深い抵抗が隠れている可能性があります。

中小企業庁が2026年4月に公表した「2026年版中小企業白書・小規模企業白書」は、この事態に警鐘を鳴らしています。

賃上げの原資確保や人手不足の深刻化など、経営環境が転換期を迎えるなかで、現状維持こそ最大のリスクだと明言しました。

そのうえで、企業の明暗を分けるのは短期の損益ではなく、「長期の視点」で組織を再構築できる経営者の実行力の差だと指摘しています。

白書は同時に、経営者が持つべき基礎知識として、経営リテラシーの強化と実践を求めました。

知識として戦略を知っているかどうかではなく、「現場で使える形」に落とし込めるかどうかが問われているのです。

つまり問題は、戦略の中身が正しいかどうかではありません。

戦略を現場の行動へ、落とし込めているかどうか、その一点にかかっています。

戦略を変えても現場が変わらない会社には、共通する流れがあります。

経営者の頭のなかだけで方針が固まり、それが会議の場で結論として発表されます。

社員は「なぜ変えるのか」を自分の言葉で理解する前に、変わった結果だけを受け取ります。

すると社員の側には、また上が何か決めたらしい、という距離感が残ります。

頭では理解しても、行動では動きません。

さらに新しい方針が抽象的なスローガンにとどまり、自分の仕事のどこがどう変わるのか、具体的に描けない場合も多くあります。

役割や評価の基準が変わらないまま方針だけが変わると、社員は従来のやり方を続けたほうが安全だと判断してしまいます。

中間管理職も、経営者の意図と、現場の戸惑いの間で板挟みになります。

どちらの立場も否定できないまま、結局は動きを鈍らせる側に回ってしまいます。

これは社員の意識が低いからではなく、変化を受け止める仕組みが用意されていないからだと考えます。

心理学では、こうした反応を「現状維持バイアス」と呼び、多くの人に共通する心の働きとして説明します。

損失を避けたい気持ちや、先の見えない不安を避けたい気持ちが、変化を遠ざける方向へ働きます。

経営者が正しい戦略を掲げても、その戦略に「自分ごと」として関われる余地がなければ、現場は動きようがないのです。

変化を怖がっているのは、社員だけではありません。

方針が本当に受け入れられるかどうか、経営者自身も内心で不安を抱えているはずです。

私自身、代表取締役社長として経営に携わった会社があります。

10年間ほぼ横ばいだった業績を、3年間で売上・社員数ともに150%へ伸ばした経験があります。

また地方の老舗会社では、年商28億円から58億円へ、3年で2倍以上の成長を支援しました。

その過程で痛感したのは戦略の中身よりも、現場が「なぜ変えるのか」を自分の言葉で語れるかどうかが、実行を左右するという点です。

方針を一方的に伝えるのではなく、社員が抱く戸惑いや不安をその場で言葉にしてもらいます。

それをホワイトボードに書き出しながら、整理する対話を重ねました。

頭のなかにあるモヤモヤが、目に見える形になると、社員は初めて自分の役割の変化を具体的に考え始めます。

反対に、この対話を省略した会社ほど発表直後だけ動きが良く、数週間で元のやり方へ戻っていく傾向が強いと感じています。

対話に時間をかける流れは、遠回りに見えて、実は最短の定着ルートだと考えています。

経営者に伝えたいのは、現場が変わらないのは、能力や意欲の問題ではないという点です。

中小企業庁は2023年6月に「経営力再構築伴走支援ガイドライン」を公表しました。

そこでは対話と傾聴を重ね、経営者自身の気づきを促す支援手法が示されています。

同じ対話を、経営者から社員へ向けて実践できないはずがありません。

戦略を発表する前に、社員が感じている不安や負担を、一緒に言語化する場を設けてください。

役割や評価の基準を、新しい方針に合わせて、具体的に描き直す作業も欠かせません。

実際のコンサルでは、部署ごとや、階層ごとの対話を重視しています。

もし負担が増える部分があるなら、それを隠さずに先に伝えてます。

誠実さは、抵抗を減らす何よりの近道です。

最初の一歩は小さくてかまいません。

小さな変化が一つでも定着すれば、社員は「今回は違う」と感じ始めます。

現状維持が最大のリスクだと白書が示す今こそ、戦略と現場をつなぐ実行力を磨く好機だと捉えてください。

あなたの会社が積み重ねてきた現場の力は、正しく理解されれば必ず動き出します。

渡邉ひとし
渡邉 ひとし株式会社未来デザインカンパニー 代表取締役/持続型経営コンサルタント

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