経営計画発表会で、若手社員が下を向いたまま反応しない。
辞める理由を聞いても、「特にありません」としか返ってこない。
この現象こそ、経営者が最も恐れるべき警鐘です。
不満をぶつけられるより、無言で去られる方が、経営としてはるかに深刻です。
原因を特定できないまま、同じ離職が繰り返されるからです。
「うちの理念は、若手には響かない」
そう感じているなら、原因は若手の意欲不足ではなく、「言葉」と「場」の設計自体にあると疑ってみてください。
リクルートマネジメントソリューションズは、2025年6月23日に「新入社員意識調査2025」を発表しました。
調査は2025年3~4月、公開型研修受講者718名と、インハウス型研修受講者2,795名を対象に実施されています。
働くうえで大切にしたい項目として「会社の文化・風土を尊重する」を選んだ新入社員は、わずか2.6%にとどまりました。
選択肢の中で最下位です。
一方で、「社会人としてのルール・マナーを身につける」は53.6%と、過去最高を記録しています。
仕事で重視する項目のトップは「成長」で35.1%、次いで「貢献」が23.8%でした。
「競争」はわずか3.0%で最下位です。
働きたい職場のトップは「お互いに助けあう」で69.4%、仕事上の不安のトップは「仕事についていけるか」で64.8%にのぼりました。
経営者が、朝礼や発表会で使いがちな言葉を思い出してください。
「他社に負けない」「勝ち抜く」「理念を体現する」
これらは、若手が最も関心を向けていない領域に、集中しています。
若手は、会社への忠誠より先に、社会人として恥ずかしくない振る舞いと、成長の実感、助け合える関係を求めています。
ここまで数字が揃っていながら、経営者側の言葉と場がなかなか変わらないのは、なぜでしょうか。
理由はシンプルです。
自分が新入社員だった頃に響いた「言葉」と「場」を、今もそのまま使い続けているからです。
広告やマーケティングの現場で6万件超の案件に携わった経験から言えるのは、次の現実です。
どれほど戦略が正しくても、受け手の関心の外にある言葉では、現場は動きません。
訴求軸がずれた広告は、予算をどれだけ積んでも、成果に繋がらないのです。
経営理念(MVV)の伝達も、まったく同じ構造を抱えています。(MVV=ミッション、ビジョン、バリュー)
批判を恐れずに言えば、多くの経営者は「若手に理解してほしい」と願いながら、実際には自分が納得できる言葉だけを語り続けています。
これは伝達ではなく、独り言に近い振る舞いです。
まず変えるべきは、言葉自体です。
戦略を語るなら、翻訳が欠かせません。
たとえば、「この方針は、あなたの成長にどうつながるのか」。
あるいは、「この目標は、誰の助けになる仕事なのか」。
こうした言い換えです。
理念自体を書き換える必要はありません。
次に変えるべきは、「伝える場」の設計です。
多くの中小企業では、理念や戦略を伝える場が、年一度の発表会や月一回の朝礼に限られています。
一方通行で年数回しか語られない言葉は、頭に残る前に消えていきます。
理念浸透の場を、業務の不安を解消する場と切り離さず、日常の対話に重ねる工夫が求められます。
たとえば1on1の面談で、会社の方針と本人の成長目標を、その場で紐ずけて話す方法が考えられます。
戦略の整理や事業計画づくりの支援を、1,200件以上手がけてきました。
理念が浸透している会社ほど、伝える場の頻度と双方向性が高いという傾向が見えます。
ホワイトボードなどを使い、若手の疑問や違和感を、その場で見える形にしながら対話する手法も有効な選択肢の一つです。
頭の中にある戸惑いは、見える形にして初めて、対処できる論点へ変わります。
社員十数名の会社であっても、伝える場の設計は、丁寧に組み直す価値があります。
人数が少ない分、一つの言葉の影響が現場全体に広がりやすいからです。
「言葉」と「場」を見直した会社ほど、若手の定着率や発言量に変化が表れていきます。
まずは自社の現状を、小さな範囲から検証してみてください。
数字を軽視して、感覚だけで語り続ける経営者に、若手はついてきません。
逆に、数字を理由に若手へ迎合し、経営としての軸まで曲げる必要もありません。
大切なのは、譲れない軸を保ったまま、伝え方と伝える場だけを、相手仕様に組み替える取り組みです。
「今どきの若い者は」と嘆く前に、自身の言葉づかいと、場の設計を疑う経営者はまだ多くありません。
仕組みを変えるには、時間もコストもかかります。
だからこそ後回しにされがちです。
しかし、遅れるほど若手との距離は広がり、離職や採用コストの膨張という形で跳ね返ってきます。
世代間ギャップは対立の種ではありません。
これまで届いていなかった言葉と場を鍛え直す、貴重な機会です。
まずは、あなたが発している言葉を、若手が実際に大切にしている「関心軸」に、照らしてみてください。
その一歩から、若手が自ら動き出す組織づくりが始まっていきます。
焦らず一つずつ組み替えていけば、現場の空気は必ず変わっていきます。


