「自分には、これだけの経験がある」
そう思っている人ほど、今の職場で、評価されていないと感じています。
doda(パーソルキャリア)が2026年2月に実施した調査があります。
対象は、45歳から60歳のミドルシニア2,090人です。
そのうち85.9%が、転職に不安を抱えていると回答しました。
不安の中身を見ると、「自身の能力が通用するか」を挙げた人が35.2%です。
これは、20代より6.0ポイント高い数値です。
経験を積んだ人ほど、自分の経験が今の場所で通用するかを、強く疑っているのです。
これは、経験が足りないからではありません。
経験の量なら、むしろミドルシニアの方が圧倒的に多いといえます。
問題は、経験の量ではなく、経験の出し方にあります。
若い頃は、現場に立ち続け、失敗を重ねるだけで、判断の精度が上がりました。
それが自然と評価に繋がった時代もありました。
しかし役職や立場が変わると、求められる成果の中身も変わります。
現場で正しかった判断が、今の役割では、ズレて見える場面があります。
そこに気づかず、若い頃と同じやり方で経験を語り続けると、どうなるでしょうか。
「話が長い」「昔の話ばかりする」と受け取られてしまいます。
経験を積んだ分だけ、過去の成功パターンへの自信は強くなります。
だからこそ、それが通用しないと分かった瞬間の落差も、深くなります。
経験自体が資産です。
しかし資産は、置いたままでは価値を生みません。
同じ調査では、転職先を選ぶ理由も聞いています。
「能力を十分に発揮できるか」を挙げたミドルシニアは、64.4%に上りました。
これは、20代より明確に高い数値です。
経験のある人材ほど、経験を発揮できる場を求めて、動き始めています。
つまり、経験を活かせていないと感じているのは、本人だけの問題ではありません。
その経験を活かす場を用意できていない会社の側にも、原因があります。
実際、転職を検討・活動中と答えたミドルシニアは20.3%で、およそ5人に1人に上ります。
経験のある人ほど、今の場所に見切りをつけ始めています。
中小企業の現場では、こうした会社が少なくありません。
ベテラン社員に対し、明確な役割を示さないまま、「今までどおり頑張ってほしい」とだけ伝えている会社です。
役割が曖昧なまま経験だけを期待されると、本人は何を成果として示せばよいか、分からなくなります。
分からないまま日々を過ごし、気づけば数年が経っている、という声も聞きます。
それは、本人にとっても会社にとっても、大きな損失です。
結果として、経験は現場に埋もれたまま、評価にも成果にも繋がりません。
これは、本人の努力不足ではなく、会社側の設計不足です。
経営者が今すぐ着手できるのは、三つです。
第一に、今どんな成果を期待しているかを、言葉にして伝えます。
第二に、経験のうちどの部分を、今の課題に使ってほしいかを、具体的に示します。
第三に、若手との橋渡し役など、経験が活きる役割を、あえて設計します。
これらを怠ると、経験は個人の中に閉じたまま、組織の資産になりません。
一方で、会社だけを責めるのも、正しくありません。
ベテラン社員自身も、経験を今の言葉に翻訳する作業を、怠っている場合があります。
過去の成功事例をそのまま語るだけでは、今の若手にも、今の経営課題にも届きません。
「あの頃はこうやって乗り切った」
その一言だけで終える人がいます。
一方で、そこから今の課題に置き換えて話す人もいます。
周囲の受け取り方は、そこでまるで違ってきます。
広告企画の現場では、同じ情報でも伝え方一つで、受け取られ方がまるで変わる場面を、数えきれないほど見てきました。
経験も同じで、内容が正しくても、渡し方を誤れば、相手には届かないのです。
経験を資産に変えるには、会社が場を用意し、本人が翻訳する、両方の動きが要ります。
どちらか一方だけでは、経験は活きないまま埋もれていきます。
努力の量を増やす方向にばかり、気を取られていないでしょうか。
経験があるのに成果が出ないと感じたとき、多くの人は、もっと頑張ろうとします。
しかし必要なのは、努力を積み増す方向ではなく、経験を今の場所に合わせて置き直す作業です。
まず、今の職場が成果としている基準を、具体的に確認してください。
売上なのか、育成なのか、それとも新しい仕組みづくりなのかで、活かせる経験は変わります。
その定義に、自分の経験のどの部分が使えるかを、一つずつ照らし合わせていきます。
経験を活かせないと感じているなら、経験自体を疑う前に、その出し方を疑ってみてください。
もし今、経営者として、経験のある社員が力を発揮できていないと感じるなら、まず役割と期待を、言葉にして渡してみてください。
長く現場に立ち続けてきた人には、それだけの蓄積があります。
その蓄積を、今の職場が必要としている形に整え直す作業を、一緒に進めていきましょう。


