【組織変革の行動率22.7%の壁】伝えた量より、聞く順番を変える
「説明会もやったし、資料も配った。なぜ現場は変わらないのか。」そう肩を落として漏らす経営者は、きっと少なく無いはずです。
電通が2025年11月に「企業の変革に関する従業員意識調査」の第3回を実施しました。
従業員600人、ミドルマネジメント276人、経営層100人、合わせて900人が回答しています。
変革に関する情報発信がされていると感じる従業員は、74.3%にのぼりました。
ところが、実際にすでに行動している従業員は22.7%にとどまっています。
理解はしているが行動していない層も22.9%存在します。
変革を他人事と捉える層は26.5%、消極的な層も22.2%にのぼりました。
伝えた量と、動いた量の差が、これほどはっきりと数字に出る調査は、なかなか珍しいですね。
多くの経営者は、情報を出せば人は動くと考えます。
方針を伝え、あとはミドルマネジメントが部署ごとに落とし込んでほしいと期待します。
しかし現場のミドルマネジメントは、経営層の言葉をそのまま部下に伝えるだけでは反発を受けると知っています。
かといって、経営層に異論を唱える立場でもありません。
結果として、本音を飲み込んだまま、形だけの説明を淡々と繰り返す人が増えていきます。
組織変革が、やらされ感で終わる最大の理由はここにあります。
私はこれまで、戦略立案から組織変革まで、経営者の判断を整理し、社員の行動が変わるところまで伴走する支援を続けてきました。
20代の頃、効率や成果を優先しすぎて周囲との関係に軋轢を生んだ経験があります。
正しさを語れば人は動くと思い込んでいた時期でした。
しかし実際には、正しさよりも、自分にとっての意味が、見えるかどうかの方が人の行動を左右します。
「企業経営の成否の50%は、経営理念の浸透度で決まる」という言葉があります。
浸透とは、理念を知っているかどうかではなく、自分の行動とどうつながるかを、社員自身が言葉にできるかどうかを指すのだと私は捉えています。
今回の調査で、理解はしているが行動していない層が22.9%も存在した事実は、まさにこの浸透不足を示しています。
やらされ感を生むもう一つの要因は、評価との断絶です。
調査では、変革への取り組みが人事評価につながらないと感じている従業員が23.6%にのぼりました。
頑張って動いても評価が変わらないなら、動かない方が合理的だと考える社員が出てくるのは、ごく当然の反応です。
方針だけを語り、評価制度をそのままにしておく会社ほど、現場の温度は上がりません。
同じ調査では、ミドルマネジメント層の62.3%が、AIを活用していると答えています。
一方、一般社員のうちミドルマネジメントが変革に貢献していると評価する割合は26.5%にとどまりました。
ツールを使いこなす力と、方針を現場の言葉に翻訳し、部下を巻き込む力は、根本からまったく別の能力です。
この点を混同したまま、ミドルマネジメントに推進役だけを任せる会社が、少なくありません。
具体的な処方箋は、二つあります。
まず、方針を発表する前にミドルマネジメントと、非公式に意見交換する時間を設ける取り組みです。
反対意見が出たとしても、それは抵抗ではなく現場からの重要な情報です。
事前に聞いておけば、発表時の説明に懸念への回答をあらかじめ盛り込めます。
次に、この方針は自分の部署で言うと何を意味するのかを、ミドルマネジメント自身に言語化してもらう、対話の場をつくる取り組みです。
他人から渡された説明ではなく、自分で組み立てた説明であれば、部下への伝え方にも自然と熱がこもります。
「マネジメントとは、人にかかわることである」とピーター・ドラッカーは述べています。
方針を伝えるだけの役割ではなく、人と人の間に立って、納得をつくる役割こそがミドルマネジメントの本来の仕事です。
板挟みの立場を孤立させない配慮も、経営者の重要な仕事の一つです。
特別な制度を新設する必要はありません。
月に一度、ミドルマネジメントだけを集めた非公式な対話の時間を確保するだけでも、十分に始められます。
大切なのは、経営者が答えを用意して臨む場にしない点です。
分からない部分は分からないと素直に伝え、一緒に考える姿勢を見せるだけで、板挟みの立場は少しずつ軽くなっていきます。
私が支援先で心がけているのも、答えを先に用意して押しつけるのではなく、まず聞くところから始める進め方です。
根気よくあらゆる方向から質問を重ね、相手自身に気づきが生まれる瞬間を待つ姿勢は、経営者とミドルマネジメントの対話でも変わりません。
もし組織変革が、やらされ感で止まっていると感じるなら、原因は伝え方の技術ではありません。
まずは一人のミドルマネジメントをつかまえて、その方針について本音を聞いてみてください。
答えに詰まる様子があれば、そこが今の会社の翻訳不足を映す鏡です。
焦らず、一緒に言葉を組み立て直していきましょう。


