「自分でやったほうが早い」と社長が手を出すたびに、会社の成長の上限は、社長一人の処理能力に近づいていきます。
判断も承認も社長に集まる会社では、社員は考えるより先に、社長の返事を待つようになります。
この構造を整理した記事が、ダイヤモンド・オンラインに掲載されていました。
戦略コンサルタントの山本大平氏が、著書『仕事ができる人の超整理術』から、一部を抜粋した記事です。
山本氏は、「自分がやったほうが早い」という判断を、中長期ではチームの生産性を壊す「タチの悪い怠慢」と断じています。
理由は、すべてを抱え込むと、自分の処理能力がそのままチームの成長の限界になるからです。
山本氏は、一車線の道路にたとえて説明しています。
先頭の車がどれほど速くても、すべての判断を先頭が下していれば、後ろの車は前に進めません。
先頭が風邪で休めば、後ろに大渋滞が起きます。
山本氏は、この構造を属人化と呼び、よかれと思った行動が渋滞の要因になると指摘しています。
さらに山本氏は、簡単な試算も示しています。
毎日30分かかるルーチン作業を、後輩に教えるとします。
マニュアルをつくり、横について指導し、ミスを直すと、最初は3倍の1時間30分かかります。
しかし、教えずに自分で続ければ、1年間(約240営業日)で120時間を、その作業に奪われます。
これは調査結果ではなく、著者の試算です。
ただ、前提を自社の作業に置き換えて計算すると、手放さない代償が具体的に見えてきます。
社長が抱え込む会社で社員が育たないのは、社員の意欲や能力だけが原因ではありません。
任される経験がなければ、判断の経験も積めないからです。
その結果、社長が不在にできない会社ができあがります。
では、任せた仕事が60点で返ってきたとき、どう判断すればよいのでしょうか。
山本氏は、目的を達成できていれば、自分の100点と後輩の60点に成果の差はないと述べています。
残りの40点は自己満足であり、手放すべきプライドだという主張です。
私も、基本は同じ考えです。
目的を満たしていれば、OKを出します。
ただし、この考え方には、二つの条件がつくと考えています。
一つ目は、お客様に出す仕事です。
合否を判断するのは、上司ではなくお客様だからです。
お客様の要望が高いレベルにあれば、60点の仕事は商品として通りません。
この場合、上司が見るのは、自分の基準ではなく、お客様の合格点に届いているかどうかです。
二つ目は、社内の仕事です。
育成の意味を考えれば、目的を満たしている限りOKを出します。
ただし、「この出来は、私自身の評価点では、60点です」というフィードバックは、必ず返します。
OKだけを返せば、部下は今の出来を到達点と受け取りかねません。
任せるとは、手放して終わりではなく、合格点を言葉にして渡し、結果を返す往復です。
合格点が言葉になっていれば、部下は自分で仕上がりを確かめられます。
そうすれば確認の往復が減り、社長の時間が空いていきます。
ここで、多くの経営者が見落としがちな点があります。
合格点を言葉にしないまま渡せば、部下は何を目指せばよいのか分からないのです。
米国では、この曖昧さが社員の不安を招いた例があります。
Business Insider Japanは、ナイキやメタなどに広がる『保留型レイオフ』について報じました。
誰が対象かを伝える数週間から数カ月前に、人員削減だけを先に発表する方式です。
記事では、米国の人事の専門家が、対象の部署や役職を具体的に示さない曖昧な警告は、社内の大きな不安につながると指摘しています。
米国の大企業の人員削減の話ですので、日本の中小企業にそのまま当てはまるわけではありません。
しかし、誰に、何を、いつまでに求めるのかを示さない発表は、受け取る側を待たせるという点で、仕事を任せる場面と共通します。
目的、期限、合格点を示さずに、「あとはよろしく」と渡せば、部下は迷った末に、社長へ確認に戻ってきます。
その確認に社長が答えるたびに、判断は再び社長に集まります。
これでは、任せたとは言えません。
抱え込みは、社長の責任感の強さの表れでもあります。
会社を守ってきたその力を、否定する必要はありません。
ただ、その力が、会社の成長の上限にならないように、一つだけ試してみてください。
今週、社長が抱えている作業を一つ選び、目的と期限と合格点を紙に書いて、誰かに渡してみてください。
あなたの会社では、その作業の最初の受け取り手は、誰になりますか。
【出典】ダイヤモンド・オンライン「「自分でやったほうが早い」が年間120時間を奪う?仕事を部下に任せられない上司の大誤算」(2026-10-15)、Business Insider Japan「広がる「保留型レイオフ」…ナイキやメタ、対象者を明かす前に人員削減を発表」(2026-10-15)


