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ブログ / シン組織変革の教科書

第60話 「自分でやったほうが早い」は怠慢。毎日30分の作業が奪う年間120時間を、取り戻す条件とは。

2026年10月16日 執筆:渡邉ひとし

「自分でやったほうが早い」と社長が手を出すたびに、会社の成長の上限は、社長一人の処理能力に近づいていきます。

判断も承認も社長に集まる会社では、社員は考えるより先に、社長の返事を待つようになります。

この構造を整理した記事が、ダイヤモンド・オンラインに掲載されていました。

戦略コンサルタントの山本大平氏が、著書『仕事ができる人の超整理術』から、一部を抜粋した記事です。

山本氏は、「自分がやったほうが早い」という判断を、中長期ではチームの生産性を壊す「タチの悪い怠慢」と断じています。

理由は、すべてを抱え込むと、自分の処理能力がそのままチームの成長の限界になるからです。

山本氏は、一車線の道路にたとえて説明しています。

先頭の車がどれほど速くても、すべての判断を先頭が下していれば、後ろの車は前に進めません。

先頭が風邪で休めば、後ろに大渋滞が起きます。

山本氏は、この構造を属人化と呼び、よかれと思った行動が渋滞の要因になると指摘しています。

さらに山本氏は、簡単な試算も示しています。

毎日30分かかるルーチン作業を、後輩に教えるとします。

マニュアルをつくり、横について指導し、ミスを直すと、最初は3倍の1時間30分かかります。

しかし、教えずに自分で続ければ、1年間(約240営業日)で120時間を、その作業に奪われます。

これは調査結果ではなく、著者の試算です。

ただ、前提を自社の作業に置き換えて計算すると、手放さない代償が具体的に見えてきます。

社長が抱え込む会社で社員が育たないのは、社員の意欲や能力だけが原因ではありません。

任される経験がなければ、判断の経験も積めないからです。

その結果、社長が不在にできない会社ができあがります。

では、任せた仕事が60点で返ってきたとき、どう判断すればよいのでしょうか。

山本氏は、目的を達成できていれば、自分の100点と後輩の60点に成果の差はないと述べています。

残りの40点は自己満足であり、手放すべきプライドだという主張です。

私も、基本は同じ考えです。

目的を満たしていれば、OKを出します。

ただし、この考え方には、二つの条件がつくと考えています。

一つ目は、お客様に出す仕事です。

合否を判断するのは、上司ではなくお客様だからです。

お客様の要望が高いレベルにあれば、60点の仕事は商品として通りません。

この場合、上司が見るのは、自分の基準ではなく、お客様の合格点に届いているかどうかです。

二つ目は、社内の仕事です。

育成の意味を考えれば、目的を満たしている限りOKを出します。

ただし、「この出来は、私自身の評価点では、60点です」というフィードバックは、必ず返します。

OKだけを返せば、部下は今の出来を到達点と受け取りかねません。

任せるとは、手放して終わりではなく、合格点を言葉にして渡し、結果を返す往復です。

合格点が言葉になっていれば、部下は自分で仕上がりを確かめられます。

そうすれば確認の往復が減り、社長の時間が空いていきます。

ここで、多くの経営者が見落としがちな点があります。

合格点を言葉にしないまま渡せば、部下は何を目指せばよいのか分からないのです。

米国では、この曖昧さが社員の不安を招いた例があります。

Business Insider Japanは、ナイキやメタなどに広がる『保留型レイオフ』について報じました。

誰が対象かを伝える数週間から数カ月前に、人員削減だけを先に発表する方式です。

記事では、米国の人事の専門家が、対象の部署や役職を具体的に示さない曖昧な警告は、社内の大きな不安につながると指摘しています。

米国の大企業の人員削減の話ですので、日本の中小企業にそのまま当てはまるわけではありません。

しかし、誰に、何を、いつまでに求めるのかを示さない発表は、受け取る側を待たせるという点で、仕事を任せる場面と共通します。

目的、期限、合格点を示さずに、「あとはよろしく」と渡せば、部下は迷った末に、社長へ確認に戻ってきます。

その確認に社長が答えるたびに、判断は再び社長に集まります。

これでは、任せたとは言えません。

抱え込みは、社長の責任感の強さの表れでもあります。

会社を守ってきたその力を、否定する必要はありません。

ただ、その力が、会社の成長の上限にならないように、一つだけ試してみてください。

今週、社長が抱えている作業を一つ選び、目的と期限と合格点を紙に書いて、誰かに渡してみてください。

あなたの会社では、その作業の最初の受け取り手は、誰になりますか。

【出典】ダイヤモンド・オンライン「「自分でやったほうが早い」が年間120時間を奪う?仕事を部下に任せられない上司の大誤算」(2026-10-15)、Business Insider Japan「広がる「保留型レイオフ」…ナイキやメタ、対象者を明かす前に人員削減を発表」(2026-10-15)

渡邉ひとし
渡邉 ひとし株式会社未来デザインカンパニー 代表取締役/持続型経営コンサルタント

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