【「AIに聞くたびに答えが違う」を防ぐ、経営者が今すぐ決めるべき2つのルール】
ChatGPTに聞き、Geminiに聞き、Claudeにも聞いてみたら、答えが三つとも微妙に違った。そんな経験は、あなたにもないでしょうか。
商工組合中央金庫が2025年12月から2026年1月にかけて調査を実施しました。
取引先中小企業10,772社に送付し、3,892社から有効回答を得ています。
生成AIの利用実態を尋ねたところ、最も多かった回答は、会社での導入なし使用は個人の判断に任せるでした。
この回答は64.9%にのぼりました。
会社として主導的に導入している企業と、個人登録のAIを推奨している企業を合わせた、積極活用層は31.1%にとどまっています。
つまり多くの会社では、社員一人ひとりが、それぞれ違うAIに、それぞれ違う聞き方で相談しています。
誰がどのAIに何を聞いたのかさえ、社内で共有されていない会社は少なくありません。
社員がAIに相談し、それらしい答えを持ってきても、上司はその答えを検証する基準を持っていません。
結局のところ、AIがそう言うならという理由で、判断が曖昧なまま通ってしまいます。
逆に、別の社員が違うAIから違う答えを得ていた場合、今度はどちらを信じればよいのかで会議が止まります。
声の大きい方の意見が通るだけの会議になれば、AIを導入した意味も薄れていきます。
同じ調査の自由記載欄にも、気になる声が寄せられています。
使い方を各自に任せた結果、実際に活用しているのは、ごく一部の社員にとどまりました。
多くの社員は、何に使えばよいのか、イメージすら持てていないという内容です。
道具を配っただけで、使い道を示していない会社の姿が浮かび上がります。
同じ調査では、積極活用層のうち会社が主導して導入した企業は、経営へのプラス効果を感じている割合が34.6%にのぼりました。
個人登録にとどまる企業は24.3%で、10ポイント以上の明確な差がついています。
導入後の課題としても、社内ルールや方針整備が追い付かないが25.1%で最多でした。
数字を改めて見てみると、AIの性能不足ではなく、会社としての受け皿づくりの遅れが、はっきりと浮かび上がります。
私はこれまで、戦略立案から事業計画、AI活用の実装まで、経営者の判断を整理する支援を続けてきました。
社員が判断に迷う場面の多くは、能力不足ではなく、権限のあいまいさが原因でした。
AIという新しい情報源が加わり、この曖昧さはさらに広がっています。
誰が最終判断をするのか、AIの答えをどこまで参考にしてよいのかが決まっていなければ、社員は安心して動けないのです。
私自身、20代の頃に効率や成果を優先しすぎて、周囲との関係に軋轢を生んだ経験があります。
結論を急ぐ姿勢ばかりを重視すると、周りは置き去りになりがちです。
速さを優先するあまり、なぜその答えを選んだのかを誰も説明できなければ、社員の納得は得られません。
納得のないまま進んだ判断は、あとになって思わぬ形で現場の抵抗として返ってきます。
この処方箋は二つです。
まず、AIの答えを最終判断にそのまま使ってよい範囲を、会社として決めます。
次に、答えが割れたときに誰が判断するのかを、あらかじめ決めておきます。
私が支援の場でホワイトボードを使うのも、この迷いを見える形に変えるためです。
複数のAIの答えをその場で書き出し、共通している部分と、割れている部分を分けて整理します。
共通している部分は確度の高い情報として扱い、割れている部分こそ人間の経験や現場感覚で埋めるべき箇所です。
「マネジメントとは人にかかわることである」とピーター・ドラッカーは述べています。
AIがどれほど賢くなっても、最後に責任を持って判断するのは『人』です。
私が事業計画づくりで、『数字』と『物語』の両方を大切にしているのも、同じ理由からです。
何を根拠に、誰が、なぜ選んだかを言葉にして残す作業が、次の判断への財産になります。
この振り返りは、うまくいった判断も、外れた判断も、どちらも次の基準づくりに役立ちます。
個人任せのままでは、貴重な経験が誰にも蓄積されず、そのまま消えていきます。
AIの回答が多すぎて迷うという悩みは、経営者一人の問題ではありません。
判断の材料が急に増えた時代に、会社としての受け皿がまだ整っていないだけです。
完璧な運用ルールを最初から目指す必要はありません。
まずは今抱えている一つの判断について、どのAIに何を聞き、どこまで信じるかを決めるところから始めれば十分です。
もし社員がAIの答えを持ってきたら、まずは一言、「この判断は誰が最終的に決めるか」を確認するところから始めてみてください。


