AIの活用は、現場に任せています。
そう話す経営者の会社ほど、AIが社内に根づいていない恐れがあります。
理由は単純で、社員には何のためにAIを使うのかが分からないからです。
ITmediaは2026年10月5日、スリスタの調査をもとに、現場任せのAI活用が失敗する理由を論じた寄稿を掲載しました。
2026年5月の同調査では、AIの利用率は課長クラスで67.3%、一般社員で25.4%でした。
同じ組織の中でも、現場の社員ほどAIを使えていない実態が見えます。
寄稿は、その背景に非正規雇用の広がりや、働き方改革による現場の余裕の喪失があると指摘しています。
具体例として挙げられているのは、IT企業の業務自動化に、契約社員や派遣社員のチームが抵抗した場面です。
抵抗の原因は、自動化という手段ではありませんでした。
検証期間中の二重作業で残業が増える負担への反発だったのです。
寄稿は、必要だったのは現場の説得ではなく、工数負担を経営側が決める判断だったと述べています。
さらに、現場の抵抗を保守的だと片付けると、打ち手を間違えると警告しています。
なお、寄稿の題名にある、経営層が言語化すべき頭の中の詳細は、2ページ目以降に書かれています。私は確認できていないため、本稿では触れません。
私自身の考えを述べると、現場の自主性に期待するだけでは、AI活用は進みません。
AIを社内に浸透させるうえで最も重要なのは、経営トップ自らがAIを本格的に使う姿勢だと考えています。
社員任せにすれば、AIを使う目的や方向性は、人によってばらばらになります。
そこへ中途半端な利用規制だけが広まれば、AIを使おうとする社員はいなくなって当然です。
何のために使うのかを示せるのは、会社の方向を決める経営者しかいないからです。
目的が示されないまま、社員に求められるのは、「失敗しない行動の選択」だけになります。
結果として、AIは便利な道具ではなく、使うとリスクのある道具として受け止められてしまいます。
では、経営者は何から始めればよいのでしょうか。
まず、自社の強みと弱みをAIと壁打ちしながら考えます。
強みについては、さらに伸ばすための打ち手をAIと一緒に練ります。
弱みについては、それを補うための対策や方法をAIと一緒に検討します。
その中から、自社のミッションに最も合う、経営戦略や経営判断に繋げていきます。
ここまで経営者が使いこなせば、幹部社員、中間管理職、一般社員が、それぞれどうAIを使えばよいのかが見えてきます。
それを幹部と議論し、自社のAI活用の方針に落とし込むのが、順当な進め方です。
経営者がAIで試行錯誤する姿は、社内に対する最も明確なメッセージになります。
その姿を見て初めて、社員は自分たちもAIを使ってよいのだと感じられます。
私が前職にいた頃、最大のお得意様の幹部の方と、酒席をご一緒した機会があります。
その方は、こう話されました。
「俺はそろそろ職を退こうと考えている。インターネットに関する深い洞察を持っていないからだ。」
さらに、時代の潮流を理解できないトップがいる限り、組織は社会の変化から取り残されるとも話されていました。
私は、その言葉に経営トップとしての覚悟と責任感を感じ、その方をいっそう尊敬するようになりました。
自分が理解できていない分野を、部下の理解に任せきりにしない。その姿勢が、組織全体に安心感と緊張感を生むのだと、学んだ出来事でした。
時代や社会の変化についていけない経営トップは、やはり変わる必要があると、今も思っています。
経営トップは、現場任せにせず、日々現場を見回り、現場の声を聞く姿勢が基本です。
AIについても同じで、経営トップ自らが学びの場に参加し、自分で試し、挑戦する姿勢が欠かせません。
もちろん、経営者がすべてを一人で使いこなす必要はありません。
また、現場の工数や残業の負担まで経営者が決めなければ、先の事例のように、現場は動きません。
ただ、現場任せを続けていれば、AI投資の成果が出ない原因は、いつまでも現場の意欲の問題にされてしまいます。
それは、経営者にとっても、現場の社員にとっても、不幸な結果です。
まずは経営者ご自身が、AIに自社の強みと弱みを相談する一歩から、始めてみてはいかがでしょうか。
その一歩が、社員が迷わず動ける方針をつくる土台になります。
あなたの会社では、AIを使う目的を、経営者自身の言葉で社員に語れているでしょうか。
【出典】ITmedia「『現場任せのAI活用』が失敗するこれだけの理由 経営層がすべき"頭の中"の言語化とは」(2026年10月5日)


