AIに聞いてみたけれど、答えがぼんやりしていて使えない。
そう感じてAIから離れていく経営者は、少なくないはずです。
しかし、その原因はAIの性能ではなく、問いかける側にあるのかもしれません。
近年、人と人との会話では、言葉の短縮化が進んでいます。
特に10代の間で流行する隠語のような短縮言葉は、大人にはほとんど理解できません。
大人同士の会話でも、言葉は短くなっています。
それでも何とか通じているのは、聞く側が忖度し、配慮して補っているからです。
組織の中で起きるコミュニケーションの問題も、根は同じだと私は考えています。
相手への配慮が欠けているか、薄くなっているのです。
日本語だから通じていると思っていても、実際には相手の理解が追いついていません。
そのお互いの思い込みが原因で、社内では多くのトラブルが発生しています。
その感覚のままAIと会話すれば、何が起きるでしょうか。
前提を省いた短い言葉では、AIは問いの意味を十分に理解できません。
しかもAIは、問いかけた人に合わせて答えようとする性格を持っています。
分からない部分を都合よく補いながら、それらしい答えを返してきます。
つまり、曖昧な問いから曖昧な回答が出てくるのは、何ら不思議ではないのです。
この問題に、企業の現場でも手が打たれ始めています。
ITmediaは2026年9月27日、NTTドコモの顧客対応の取り組みを報じました。
ドコモは、オンライン手続きサポートに対話型のAIエージェントを導入しました。
それまでの「顧客に正しく質問させる」方式をやめ、AIが聞き返しながら情報を絞り込む方式に変えたといいます。
背景には、契約内容や料金プランの複雑化があります。
顧客が前提を省いて短い言葉で質問すると、従来のチャットでは意図をつかみにくかったそうです。
例えば「料金変更」とだけ入力された場合、AIが対象の回線や希望の時期を確認し、該当する手続きへ案内します。
この事例が示しているのは、短い言葉だけでは意図が伝わらないという事実です。
ドコモは、その前提に立って、AIの仕組み自体を作り変えました。
一方、中小企業の経営者が日々使うAIには、そこまでの仕組みは用意されていません。
だからこそ、問いかける経営者自身が、伝わる問いを組み立てる必要があります。
私の師匠(メンター)から、繰り返し教えられた言葉があります。
「日本語が通じると思って話しているかもしれないが、相手の理解力のレベルによって、お前の意図が伝わるとは限らないという意識を常に持っておけ。」
当時は、人と人との会話についての教えでした。
しかし今、この言葉はAIとの対話にもそのまま当てはまると感じています。
相手が人であれAIであれ、自分の意図は放っておいても伝わりません。
何のために聞くのか、どんな前提があるのか、何を判断したいのかを言葉にして初めて、相手は動けます。
AIに対して短い言葉で済ませる経営者は、社内でも同じ話し方をしている可能性があります。
部下が察して動いてくれるから、問題が表に出ていないだけかもしれません。
しかし、部下の察する力に頼った組織は、担当者が入れ替わった途端に指示が伝わらなくなります。
AIは、その察する力を人間ほどには持っていません。
AIの曖昧な答えは、その話し方の癖を映す鏡にもなります。
私は支援先の経営者に、ある考え方を繰り返し伝えてきました。
「曖昧な言葉は曖昧な行動につながる」「曖昧な指示や命令は、曖昧な結果に終わる」という考え方です。
その結果、支援先の経営者の中には、言葉の持つ意味や使い方を重要視するようになった方もいます。
言葉を選んで伝えるようになると、次第に社員とのコミュニケーションが活発になりました。
やがて社員は、指示を待つのではなく、自ら考えて動く自律型社員へと育っていきました。
言葉を丁寧に扱う姿勢は、社員を育て、組織を変える力を持っています。
AIへの問いかけも、同じ考え方で見直せます。
もちろん、すべての場面で長く丁寧な問いが必要なわけではありません。
慣れた相手との短いやり取りで、十分な場面もあります。
ただ、判断に関わる問いほど、前提と目的を省かずに伝える必要があります。
AI時代には、むしろ人間の「問いの力」や「人間力」が欠かせなくなっています。
問いの力とは、相手の理解力を想像し、伝わる形に言葉を組み立てる力です。
人間力とは、相手への配慮を忘れず、自分の意図を丁寧に届けようとする姿勢です。
AIが進化するほど、この二つを持つ人と持たない人の差は広がっていきます。
自分を磨かなければ、AI時代に取り残されるかもしれません。
今日から始められる工夫もあります。
AIに質問するときは、最初に背景と目的を一文添えてみてください。
あるいは、答えを出す前に不明な点を聞き返してほしいと、AIに頼んでみてください。
ドコモが仕組みで実現した聞き返すAIを、自分の問いかけ一つで近い形で再現できます。
その問いの磨き方は、社内での伝え方を見直すきっかけにもなるはずです。
あなたが最近AIに投げかけた問いは、相手の理解力まで想像して、組み立てた言葉になっていたでしょうか。
【出典】ITmedia「NTTドコモ、『正しく質問させる』をやめ、"聞き返すAI"で変える顧客対応」(2026年9月27日)


