AIを導入したのに、何も変わっていない。
そう感じた経営者は、少なくないはずです。
多くの経営者が、AIをすでに使っていると答えます。
ですが、その中身を聞くと、チャット画面に質問を打ち込んで終わっている例が少なくありません。
私自身、経営者の方々とお話しする中で、いまだにチャット機能しか使っていない方が割と多いと感じています。
質問して、出てきた答えを少しだけ変えて使う。
それで満足してしまっている、という声もよく耳にします。
議事録の作成、資料の下書き、メールの文面づくりなど、便利な使い道はいくつもあります。
しかし、それだけで終わってしまうと、AIは単なる便利な道具の域を出ません。
日経ビジネスが2026年9月21日号で報じた特集「AI駆動型リーダー」があります。
経営層の約8割が業務でAIを日常的に活用していると紹介されています。
グロービス経営大学院大学との共同調査によるもので、経営層は他の職位よりもAI利用に積極的だという結果です。
一見すると、心強い数字に見えます。
しかし同じ特集は、経営層と現場社員の間に、AIの受け止め方の隔たりがあるとも指摘しています。
つまり、経営者が「使っている」と答えていても、その使い方の深さは会社ごとに大きく分かれているのです。
チャットで質問して終わる使い方と、意思決定や業務の流れそのものを変える使い方とでは、得られる成果がまったく違います。
同じ特集では、これからのリーダーに必要な資質として、最も多く挙げられたのが「リーダーシップ」でした。
これは、AIの精度や機能の話ではありません。
AIから返ってきた答えをどう受け止め、何を変える決断をするかという、経営者自身の姿勢の話です。
経営心理学の視点で言えば、社長がAIとどう向き合っているかは、思っている以上に社内へ伝わっています。
判断を丸投げしていないか、面倒だからと逃げていないかを、社員は案外よく見ています。
私は、AIをどう使うかより、AIを使って何を整理し、何を判断するかの方がずっと重要だと考えています。
ただし、最終的な決定の判断だけは、人間が必ずします。
AIは情報を整理し、選択肢を示すことはできても、その先の決断まで引き受けるのは無理です。
判断の手前までをAIに任せ、決めるのは自分だと線を引けているかどうかで、活用の質はまったく変わります。
チャットに質問を打ち込むだけの段階で止まっている限り、この線引き自体が生まれません。
議事録の作成一つを取っても、AIに任せた記録をそのまま流すだけでは意味が薄くなります。
そこから何を拾い、次の会議や意思決定にどうつなげるかまで踏み込んで、初めて経営は変わります。
見積もりや提案書のたたき台も、同じ構造です。
AIに下書きさせて終わるのと、そこから条件をどう調整し、相手にどう伝えるかまで自分で決め切るのとでは、成果が変わってきます。
もちろん、業種や事業の規模によって、AIが入り込める範囲の広さは違います。
すべての会社に、同じ深さの活用を求めるつもりはありません。
ただ、チャットで質問して終わる使い方のまま数年が過ぎれば、その差は広がっていきます。
現場との受け止め方の隔たりに気づかないまま、経営者だけが使いこなせていると思い込んでいる場合は、特に注意が必要です。
判断を止めず、AIから得た情報を実際の意思決定につなげる。
その一歩を踏み出せるかどうかが、これからの数年の会社の力を左右すると、私は考えています。
議事録一本の使い方を見直すだけでも、判断のスピードは変わってきます。
大がかりな仕組みを入れる必要はありません。
例えば次の会議で、AIに何を聞いたかではなく、AIの答えをどう判断に使ったかを共有してみる。
それだけでも、社内でのAIの使われ方は少しずつ変わっていきます。
社長自身が先に一歩を踏み出せば、部下も安心してその先へ進めます。
これは、技術に詳しいかどうかの問題ではありません。
判断を人任せにせず、自分の頭で決め切る姿勢を、社長自身が見せられるかどうかの問題です。
チャットの先に何を作るかを決めているのは、いつも経営者自身です。
その振り返り自体、経営者にしかできない仕事だと私は思います。
チャットで質問して終わっていないか、一度、自社のAI活用を振り返ってみませんか。
【出典】日経ビジネス「AI駆動型リーダー」特集(2026年9月21日号、グロービス経営大学院大学との共同調査)


