AIで業務が減っても、その余力を利益にしか回さない会社には、人が集まらなくなります。
事務作業や単純作業が減ったのに、社員の仕事は楽にならず、成長もしない。
そんな会社が、これから増えていく危険があります。
ITmedia ビジネスオンラインは2026年10月26日、産経新聞の取材記事を掲載しました。
介護事業を運営する企業の会長へのインタビューです。
建設会社の社長だった会長は、還暦を機に介護事業を起業し、現在は首都圏と近畿を中心に118施設を展開しています。
会長は、人手不足への対応として、AI活用などのDXを進めたと語っています。
サービスを低下させずに、少人数で運営できる仕組みを作り、スタッフの処遇を改善したそうです。
さらに、選択制で週休3日を導入すると、新卒の採用が急増したと述べています。
AIで生まれた余力を、効率化だけでなく、処遇と働き方に戻した事例です。
ただし、この記事には、AIで減らした作業時間や処遇改善の金額は書かれていません。
東証プライム上場企業の事例でもあり、中小企業にそのまま当てはまるとは限りません。
それでも、余力の使い道が採用の成否を分けるという示唆は、会社の規模を問わず重要だと考えます。
では、AIで浮いた時間や余力を、何に使えばよいのでしょうか。
私は、次の3つを選択肢に考えています。
第一に、顧客への対応です。
AIが事務作業を引き受けた分、顧客の話を聞く時間と、課題を一緒に考える時間を増やします。
顧客に近い仕事ほど、AIには代わりにくいからです。
第二に、自社の経営戦略に沿った事業戦略です。
営業戦略や販売戦略の見直しに、時間を充てます。
余力が戦略とつながっていなければ、浮いた時間は、会議と雑務に吸われていきます。
第三に、社員の能力、スキル、経験値の向上です。
事務作業や単純作業、簡単な業務の効率化は、これからAIがこなします。
したがって社員には、それ以上の能力が求められます。
人間力が問われる時代になるため、能力向上は余力で行う付け足しではなく、欠かせない投資です。
これらの選択を決めずに導入すると、浮いた時間は、気づかないうちに目先の業務に消えていきます。
そして、効率化の成果が社員に還元されなければ、AIは不安の種にしかなりません。
自分の仕事がなくなるのではないかと感じた社員は、新しい技術に前向きになれないからです。
先ほどの会長も、業務の専門化と分業化を進め、ケアの難度に応じて処遇を変えると語っています。
力をつけた社員が報われる仕組みまで作っている点に、余力の使い道の本気度が表れています。
一方で、余力を人に回す前に、経営者自身が確認すべき点があります。
それは、経営者がAIを理解しているかどうかです。
私が前職でお世話になった大企業の幹部の方は、限定したメンバーの席で、「そろそろ若手と交代する時期と考えている」と語りました。
理由を尋ねると、インターネットやDXに精通しておらず、一般人程度の能力しかないと答えられました。
そのような人間が、この時代にトップにいるのは、会社の損失だというのです。
私は、その考え方と覚悟に大きな感銘を受け、さらにその方を尊敬するようになりました。
経営者がすべてを分かっている必要はありません。
しかし、その時代の根幹となる技術が使えなければ、社会的に見ても、会社にとってプラスにはなりません。
少し前ならパソコン、その次はインターネット、いまはAIです。
経営者がAIを理解していなければ、導入しても本来の力を引き出せず、余力の使い道も決められません。
年齢は関係がありません。
記事の会長は、還暦を機に新事業へ進みました。
私も50代で会社を設立し、事業をゼロから始めました。
その経験から言えるのは、知識と経験に加えて、スキルを磨き続ける必要があるという点です。
いま私は、ミドルシニア世代のセカンドライフに注目し、その方々の経験値を活かす事業を構築しています。
経験豊富な世代ほど、AIという新しい根幹技術を学び直す価値があります。
では、経営者は何から始めればよいのでしょうか。
第一に、AIで減らせた作業を書き出します。
第二に、浮いた時間の使い道を、顧客、事業戦略、社員の能力向上に配分します。
第三に、自分自身がAIを使い、何ができるかを体感します。
どれも大きな費用はかからず、今週から始められます。
最初から完璧な配分は要りません。
まずは、浮いた時間のうち、社員の能力向上に充てる分を決めてみてはいかがでしょうか。
あなたの会社では、AIで生まれた余力を、何に使っていますか。
【出典】ITmedia ビジネスオンライン「AI活用で処遇改善、週休3日を導入 建設会社社長から介護事業を“起業”した経営者の実行力」(2026年10月26日)


