「時間がない」と言う上司を放置する会社では、AIの利用率が上がっても成果は増えません。
社員がAIで新しい取り組みを始めようとしても、直属の上司が「今は忙しい」と止めてしまう。
経営者が号令をかけても、現場の判断で止まれば、取り組みは広がりません。
ITmedia ビジネスオンラインは2026年11月2日、メルカリの事例を掲載しました。
同社の木村俊也執行役員CHRO(最高人事責任者)兼CAIO(最高AI責任者)が、オンラインカンファレンスで語った内容です。
メルカリの全従業員のAIツール利用率は、1月末時点で100%に達しました。
エンジニア1人あたりの開発量も、AI化前の7.6倍になっています。
しかし、使う人が増えても、組織全体の成果が増えるとは限りませんでした。
約2000人の社員のうち、エージェント(AIが業務を代行する仕組み)作りに時間を使いたい部下を止める上司が、少数ながらいたそうです。
木村氏は2週間に1回、全社員に「エージェント作りに使う時間は無駄ではない」と伝え続けました。
それでも、「時間がない」という声は、無くなりませんでした。
そこで始めたのが、非エンジニアの社員1000人以上を対象に、丸1日だけ業務を止める『AI Agent Day』です。
朝の1時間ほどで作り方を学び、チームで自分の業務用のエージェントを作り、最後に発表し合います。
参加者からは、「この日から考え方が変わった」という声が上がったと、記事は伝えています。
ただし、約2000人規模の会社だからできた対策で、すべての会社にそのまま当てはまるとは限りません。
それでも、経営層が時間を決めなければ、現場は動かないという示唆は、会社の規模を問わず重要だと考えます。
利用率だけを成果として報告している会社は、現場が止まっている実態を見逃します。
私は、この「時間がない」という言葉に注意が必要だと考えています。
「予定が入ってしまった」と言う人がいます。
しかし、予定は勝手に入りません。
入れたのは、そう言っている本人です。
つまり、あなたに会うより重要な案件があるので、そちらを選びましたという意味になります。
「時間がない」も同じです。
時間が自然に消えるわけではなく、そこには必ず人が関わっています。
知人で著名な方は、「時間がない」は「私は自分のスケジュール管理ができません」と言っているのと同じ意味だ、と評価しています。
私も、この考え方に同感です。
人、物、金は、取り返しがつく可能性が高い経営資源です。
しかし、時間だけは取り返しがつきません。
そのため私は、時間を最も重要な資源と考え、顧問先の企業の方々にもお話ししています。
約束の時間に遅れれば、相手の時間を奪います。
相手が複数であれば、複数の方の時間を奪います。
遅刻を常習的にする人は、この意識が薄いと、周囲から評価されてしまいます。
私は、師と仰ぐ方から、顧客との約束は時間の5分前に、その会社の玄関前で待つよう教わりました。
そして、それを習慣にしなさいという教えでした。
その師匠は、一緒にクライアントを訪問するときも、毎回同じ行動をしていました。
約束の5分前に、玄関から少し離れた場所で待ちます。
そして5分前になると、ゆっくりと玄関へ向かい、訪問します。
毎回、まったく同じでした。
私にもその習慣が根づき、5分前という感覚が身についています。
公共交通機関の遅延による遅刻は、仕方がありません。
しかし、余裕を持って相手を訪ねるのが基本的な礼儀だという考えは、師匠譲りです。
現場の上司が言う「時間がない」も、先にやる仕事がある、という意味でしょう。
それならば、時間の配分を新しい視点で組み替える能力が、上司に求められます。
それは段取りの力であり、生産性向上にも直結します。
また、「時間がない」の一言には、仕事に取り組む姿勢や考え方が表れます。
これまでの習慣や、性格も含まれていると考えます。
そのため経営者が、この言葉をそのまま受け取って済ませると、本当の課題は見えません。
では、経営者は何から始めればよいのでしょうか。
第一に、上司の「時間がない」を受け入れる前に、何を優先した結果なのかを確認します。
第二に、AIの学習や活用に充てる時間を、経営者が先に決めます。
メルカリのように、業務を止める日を設ける方法もあります。
第三に、時間の配分と段取りを、上司の評価の観点に加えます。
どれも大きな費用はかからず、今月から始められます。
最初から、1日止める必要はありません。
まずは、AIの活用に充てる最初の半日を、経営者が決めてみてはいかがでしょうか。
あなたの会社では、「時間がない」という言葉の裏に、どんな優先順位がありますか。
【出典】ITmedia ビジネスオンライン「その日、メルカリは『業務を止めた』――上司と部下が対立も、AI利用率100%をかなえたCAIOの奮闘記」(2026年11月2日)


