SNSで、20代の経営者が資金調達に成功したという投稿を目にします。
「自分は何をやっているのだろう。」
そんな独り言が、頭をよぎった経験のある経営者は、少なくないはずです。
若い事業家の勢いを見るたびに、焦りを覚える40代、50代の経営者は増えています。
ただ、この焦りの正体を、正確に言語化できている人は多くありません。
日本経済新聞は、スタートアップ企業108社を対象にした「NEXTユニコーン調査」を紹介しています。
調査によると、起業時の年齢は30代が45%、20代が31%を占め、20~30代で全体の約8割にのぼります。
若さと柔軟性を強みに、事業を急成長させる起業家が増えている、と記事は指摘しています。
つまり、焦りは思い込みではなく、実際に世代の勢力図が変わり始めている現象なのです。
ここで、もう一つデータを見てみます。
帝国データバンクの「全国社長年齢分析調査(2025年)」によると、社長の平均年齢は60.8歳でした。
1990年以降、35年連続で過去最高を更新しています。
60代以上の社長は、全体の52.6%を占めます。
つまり、日本の経営者全体で見れば、依然として60代以上が多数派です。
SNSは、目立つ投稿ほど繰り返し表示されやすい仕組みになっています。
だからこそ、若手起業家の成功は、実際の分布より大きく見えているのかもしれません。
とはいえ、若手の勢いを軽視してよいわけでもありません。
中小企業庁の「2026年版中小企業白書」は、興味深いデータを示しています。
10年以内に事業承継を実施した企業を、後継者の年代別で見ると、付加価値額の増加率に差があります。
50歳代以下の後継者が継いだ企業は、増加率の中央値が18.5%でした。
60歳代以上の後継者が継いだ企業は、14.9%にとどまります。
差は3.6ポイントです。
中小企業白書も、経営者の年齢が若い企業ほど、付加価値額の増加率が高い傾向を指摘しています。
数字を見る限り、若い経営者の勢いは本物だと分かります。
ここで、一つ注意が必要です。
だからといって、若い経営者がすべての面で優れているわけではありません。
帝国データバンクの別の調査でも、興味深い傾向が見えます。
2023年から2025年に代表者交代が行われた企業を分析した結果です。
新しく就任した代表者のうち、業界経験が10年以上の割合は83.9%を占めています。
業界に精通した人材が、代表者として就任するケースが多くなっています。
一方で、経営経験は「3年未満」が69.6%と最も多くなっています。
つまり、事業を引き継いだばかりの経営者は、現場の経験は豊富でも、経営者としての経験値はまだこれからという人が大半です。
若さや勢いだけで、経営の土台まで完成しているとは限りません。
若手経営者は、体力と発想力、現場感覚を武器に、事業を前へ進めます。
一方で、組織を動かし、経営判断を積み重ねる経験は、長く経営を担ってきた中高年経営者の方に一日の長があります。
若い事業家の勢いに焦りを感じる経営者は、比較の軸を間違えているのかもしれません。
スピードや勢いという、若手が優位な軸だけで、自分を測ろうとしていないでしょうか。
事業家に必要な判断軸は、一つではありません。
体力と発想力で走る局面もあれば、経験を積んだ判断で支える局面もあります。
私はこれまで、1,200件以上の経営相談に対応してきました。
その前は、広告企画の現場で6万件を超える案件に関わり、人がどこで動き、どこで止まるかを見てきました。
規模も業種もさまざまな会社の、伸びる局面と止まる局面を、数多く見てきた実感があります。
若い勢いだけで伸びる会社もあれば、地道な積み重ねで伸びる会社もあります。
年齢を問わず、業績を伸ばし続ける経営者に共通するのは、他者と張り合わず、自分の会社の現在地を正確に把握する取り組みです。
焦りを感じたら、次の3つを整理してみてください。
第一に、自分の強みが発揮される局面を、紙に書き出します。
現場感覚と行動力で走ってきたのか、経験と判断力で支えてきたのか、まず確認します。
第二に、比較している相手の企業規模と、フェーズを確認します。
創業したばかりの若手経営者と、社員を抱える自分の会社では、動かす対象の大きさが違います。
スピードだけを切り取って比較すると、判断軸を見誤ります。
第三に、若手経営者から学べる部分だけを、区切って取り入れます。
若さと柔軟性を武器にした事業運営には、学べる部分が数多くあります。
情報発信の手法など、学べる部分は素直に取り入れます。
自分の会社が今、どの局面にあるのかを見極めず、目についた若手の勢いとだけ比較すると、焦りは膨らむ一方です。
その視点に立てば、若手の勢いは脅威ではなく、参考にすべき最新の動きとして見えてくるはずです。
焦りを感じた日は、行動を急ぐより先に、自分の強みと会社の局面を、紙に書き出してみてください。
比較をやめた瞬間から、次に取るべき一手が見えてくるはずです。


