値下げをすれば、お客様は戻ってくる。
そう考えて、売上ばかりを追いかけていませんか。
私は経営者の方々に、商売で難しいのは『価格設定』だと説明しています。
さらに、価格競争に巻き込まれるのは愚の骨頂だとも話しています。
売上よりも、利益を優先してください。
そして、粗利の高いビジネスに取り組むべきです。
例えば、1個100円で粗利率が30%の商品を、1割値下げしたとします。
1個あたりの粗利は、30円から20円に減ります。
同じ粗利を確保するには、販売数を5割増やさなければなりません。
値下げで売上が増えても、利益が残らない会社は、この計算に気づいていないのです。
東洋経済オンラインは2026年9月29日に、椿屋珈琲の高価格戦略を前編と後編で取り上げました。
1996年の開業当時、椿屋ブレンドは1杯700円でした。
当時のドトールは180円、スターバックスは260円で、かなりの高価格でした。
現在は1杯1,300円と、セルフ式カフェチェーンの約2倍以上になっています。
それでも、運営する東和フードサービスの2027年4月期第1四半期は、増収増益でした。
売上高は34.3億円で前年同期比4.6%増、営業利益は2.54億円で9.8%増です。
客数も前年同期比100.6%と、わずかに上回っています。
ただし、この客数は椿屋珈琲以外の業態も含む数字です。
高価格でも客足が鈍る傾向は見られないと、記事は伝えています。
なぜ、選ばれるのでしょうか。
スーパーバイザーの秋山久弥さんは、コーヒー単体で見れば高価格だと認めています。
しかし、食事とのセットなら2,000円程度で、他店との価格差は大きくないと説明しています。
外食全体で値上げが進み、コーヒーと食事で2,000円の店は珍しくなくなったとも述べています。
私は、比べられる相手を、コーヒーチェーンから外食の食事へ移しているのだと読み取りました。
比べる相手が変われば、適正な価格も変わります。
価格は、原価に利益を上乗せして決める数字ではありません。
誰に、何と比べてもらいたいのかを決めた結果として、決まる数字です。
同社は、この価格に責任を持つ姿勢を徹底していると、記事は紹介しています。
アルバイトにも、本社の研修センターで接客とコーヒーの抽出技術を教えています。
店ごとに指導の質が変わらないよう、基準をそろえているのです。
粗利の面でも、大きな判断がありました。
創業者は、自社で製造した商品を店舗で売れば、手元に残る利益も大きくなると考えていました。
そこで、2009年に一部の店舗で焙煎を始め、2024年に全店向けの自社焙煎へ広げています。
私は、この切り替えが、豆の香りが落ちるという品質の課題にも応える判断だったと見ています。
さらに、季節の食材を使った高付加価値の商品で客単価を上げ、原価率の上昇を補う考えです。
顧客の声の集め方にも、注目しました。
クレームも好事例も、専用の掲示板で全店舗に共有しています。
たばこを吸う客が減り、香りや味わいを楽しむ客が増えた変化も捉え、2025年に喫煙ブースを撤去しました。
市場調査は、特別な調査だけを指すのではありません。
お客様の声を集め、全店で共有し、次の判断に生かす仕組みも、立派な調査です。
私は、価格競争から抜け出すには、他社との差別化と、自社のブランディングが必要だと伝えています。
そのために、来店客や購入者にヒアリングをします。
取材をします。
AIでリサーチをします。
あの手この手で、お客様が何と比べ、どこに価値を感じているのかを探ります。
そして、データドリブンの経営が重要です。
とはいえ、データ一辺倒の考えでは、見誤る可能性があります。
数字は、過去に起きた結果を示します。
なぜお客様がその価格を受け入れているのかは、数字だけでは見えてきません。
そこで持ちたいのが、業界全体を俯瞰する、鳥の目です。
秋山さんが外食全体の値上げを見て自社の位置を測っているように、自社の立つ場所(ポジショニング)は、業界を見渡して初めて分かります。
ただし、値段だけを真似しても、うまくいきません。
研修も、自家焙煎も、空間づくりも、長い年月をかけた投資の積み重ねです。
中身が伴わないまま価格だけを上げれば、客は離れていきます。
価格設定は、経営者にとって、とても孤独な判断です。
下げるべきか、上げるべきか、迷うのは自然です。
まずは、自社の商品を何と比べて選んだのかを、お客様に直接、聞いてみてください。
その答えが、自社の価格を決める、最初の手がかりになります。
自社の商品は、今、お客様の頭の中で、何と比べられているでしょうか。
【出典】東洋経済オンライン[「"コーヒーだけで1300円"にひるむ」「メイド風制服に目を奪われる」…椿屋珈琲「ランチ2000円超えでも絶好調」も納得の理由](https://toyokeizai.net/articles/-/959171)、[ドトール180円の時代に1杯「700円」→今や「1300円」まで上昇…それでも売れる「椿屋珈琲」の高価格戦略の"真髄"](https://toyokeizai.net/articles/-/959173)(いずれも2026年9月29日)


