安定している今のうちは、新事業など考えなくてよい。
そう思って、将来への不安から目をそらしていませんか。
日本政策金融公庫総合研究所は2026年9月9日に、中小企業の新事業への取り組みに関する調査を発表しました。
調査は2026年3月中旬に、同公庫の取引先1万社を対象に行われ、4,779社が回答しています。
新事業とは、これまで自社ではまったく扱っていなかった分野の製品やサービスを開発・提供し、経営の多角化や事業転換を図る取り組みです。
最近5年間で、この新事業に取り組んだ小企業は、13.3%でした。
ここでいう小企業は、原則として従業者20人未満の会社です。
注目したいのは、取り組む直前の既存事業の様子です。
「安定しているが、将来に不安があった」と答えた会社が52.7%で、最も多くなっています。
「不振だった」は33.3%、「順調だった」は14.0%です。
つまり、新事業に踏み出した小企業の半数以上は、追い込まれてからではなく、足元が保てているうちに動いています。
分野を選んだ理由は、「自社の技術・ノウハウを生かせるため」が61.2%で最多でした。
「これから市場規模が伸びる分野であるため」は40.9%です。
市場の大きさよりも、自社の強みを生かせるかを重視する会社が多いのです。
一方で、気になる数字もあります。
新事業が売上全体に占める割合は、「0%超10%以下」が53.3%と、約半数を占めています。
自己評価は、「成功」と「どちらかといえば成功」を合わせて50.4%でした。
「まだわからない」という回答も42.4%あります。
ただし、この数字は経営者本人の自己評価であり、公庫の取引先に限った調査です。
すべての会社に当てはまるとは限りません。
それでも私は、新事業を始めただけで安心してはいけないと受け止めています。
始める仕事と、育てる仕事は別だからです。
売上の1割に届かないまま、既存事業の負担だけが重くなる可能性も、考えておく必要があります。
私は顧問先の経営者に、いつもお伝えしている考え方があります。
「自社の事業の20%は、新規事業に取り組んでください」という考え方です。
この考えの背景には、『80対20の法則(パレートの法則)』があります。
私は前職で社長だった頃、自社の5年間の実績を振り返り、すべて計算し直しました。
すると、どの視点から見ても、80対20の法則が当てはまったのです。
あまりに見事に当てはまるので、驚いたほどです。
もちろん、これだけが理由ではありません。
ただ、現状維持は衰退だと、私は考えています。
だからこそ、これまでの事業に80%を注ぎ、残りの20%で新規事業に取り組みます。
この姿勢が、持続型経営の考え方の本質です。
この数字に照らすと、新事業が売上の1割以下にとどまる会社が約半数という結果は、気になります。
では、新事業を始める前に、何を見極めればよいのでしょうか。
私が確認する視点は、次の3つです。
1つ目は、新事業が従来のお客様の目に、どう映るかです。
既存のお客様が違和感を持つ事業は、信頼を損なうおそれがあります。
2つ目は、自社の従業員が、その新事業をどう受け止めるかです。
社内の納得がないまま進めれば、現場は動きません。
3つ目は、自社のノウハウ、スキル、能力を、どの程度生かせるかです。
調査で最も多かった「自社の技術・ノウハウを生かせるため」という理由は、この3つ目に重なります。
しかし、何よりも大切なのは、経営トップである経営者が、どんな思いで取り組むかです。
経営者に熱量がなければ、新事業が続くはずはありません。
「何だかわからないけれど、儲かりそうだ」という程度の判断では、成果が出るまで持ちこたえる熱意は生まれません。
前職の会社で社長に就任したとき、創業者から言われた言葉があります。
「役員である君と、社長になった君では、天と地ほどの差がある」。
当時は、ぴんと来ないまま聞いていました。
しかし、実際に就任してみると、その言葉の意味を思い知りました。
役員のころは、休日は休日として過ごせました。
社長になると、休んでいても、将来の事業や社員、お客様のことが、ふと頭をよぎります。
そのとき創業者は、経営者になった私に、重要な3つの言葉を伝えてくれました。
それが、「知恵と勇気と覚悟」です。
私は、この3つが、新事業を始める前の重要な尺度になると考えています。
この新事業で、自社の、あるいは自分自身の知恵と勇気を発揮できるか。
そして、本物の覚悟を持てるか。
スキルや技術、知識は、外部の協力を仰ぐ方法があります。
社内で育成する方法もあります。
しかし、知恵と勇気と覚悟は、簡単には生まれてきません。
だから私は、新事業の前に、経営者としての知恵と勇気を発揮でき、覚悟が持てるかを、自分に問います。
将来への不安は、新事業に踏み出すきっかけになります。
ただし、不安だけを理由に始めた新事業は、壁に当たったときに続きません。
まずは、考えている新事業の案を1つ決めてください。
そして、「この事業に、自分の知恵と勇気と覚悟を注げるか」を、紙に書いて自問してみてください。
答えに詰まったとしても、落ち込む必要はありません。
それは、案を見直すか、自分が本当に大切にしたい事業を考え直す機会です。
将来を不安に思うのは、会社の未来を真剣に考えている証拠です。
その不安を、覚悟に変えられる新事業とは、どのような事業でしょうか。
【出典】日本政策金融公庫総合研究所[「最近5年間で新事業に取り組んでいる小企業は13.3%、中小企業は24.2% 取り組んだ企業の約半数が前向きな評価」「中小企業の新事業への取り組みに関する調査」結果](https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/tokubetu_260909.pdf)(2026年9月9日)


