新しい事業の話は盛り上がっても、やめる話は後回しにされがちです。
しかし、やめられない事業が、次の成長に使うはずの人と資金と時間を抱え込んでいます。
そのため、成長に回す余力が残らない会社もあります。
2026年10月8日の東洋経済オンラインに、NGKの小林社長のインタビューが掲載されました。
NGKは、世界初のNAS電池事業から撤退しました。
赤字が続き、2025年10月末に撤退を決めています。
根拠として挙げられているのは、3つです。
1つ目は、特殊な部材を使うため、コストが下がりにくい点です。
2つ目は、EVの普及が減速し、中国のリチウムイオン電池の価格が急落しつつあった点です。
3つ目は、大口の提携先が販売中止を決めた点です。
3つに共通するのは、現場の頑張りだけでは動かせない要因だという点です。
それでも小林社長は、決断はむしろ遅かったと振り返っています。
営業の立場で、NAS電池を売る限界に早くから気づいていたにもかかわらずです。
気づいていても、決断は遅れます。
小林社長は、1990年代後半に祖業の海外工場の閉鎖に関わった経験にも触れています。
需要が緩やかに減る事業では、踏ん切りがつきにくかったと振り返っています。
赤字が続いていれば、やめる理由は明らかです。
しかし、緩やかに衰える事業ほど、やめる理由が見えにくく、決断は先送りされます。
小林社長は、事業に携わる人の想いやしがらみを断つのが、経営者には必要だと語っています。
そのうえで今後は撤退のルールを定め、基準に合わない事業は原則として迷わずやめる方針です。
リストラは、伸びる事業と相殺できる時期が望ましいという考えです。
半導体関連の需要が急増するなか、伸びる事業へ人・資金・設備を移す好機とも位置づけています。
つまり、やめる決断は、後ろ向きな撤退ではなく、次に伸ばす事業へ資源を移す判断でもあります。
では、何を物差しにやめるかを決めればよいのでしょうか。
私が事業や取引をやめる決断をするのは、結果が出ない場合です。
もう1つは、自分の強みが発揮できないと確信した場合です。
結果が出ない事業を続けるほど、強みを生かせる事業に使えたはずの時間が減ります。
さらに、やめる決断ができなければ、よい結果は出ないという価値観を、私は持っています。
そのため、やめる物差しを4つ持っています。
1つ目は、自分が楽しいかどうかです。
これが、最も大きな基準だと考えています。
経営者の意欲は、事業を動かす原動力だからです。
2つ目は、自分のミッション(目的)やビジョン(目指す姿)とズレてきた場合です。
3つ目は、外部環境が変わった場合です。
社会の変化や時代の流れに合わなくなった事業は、当然やめる対象になります。
NGKの撤退理由にあったEVの減速や価格の急落は、この3つ目に重なります。
4つ目は、どう見えるかです。
ステークホルダー(顧客や取引先、社員などの利害関係者)からの見え方が、本来のイメージやブランドと違う場合です。
そう気づいたら、やめる決断をします。
ただし、1つの物差しだけで決める場面は、殆どありません。
複数の物差しが重なったときに、やめるタイミングを考えます。
やめる要素が重なっていれば、決断はしやすくなります。
逆に、物差しがなければ、続ける理由ばかりが増え、やめる決断は遅れます。
重要なのは、判断軸をいくつ持ち、優先順位をどうつけるかです。
その優先順位には、自分や会社のミッションと、ブランディングが大きく影響します。
自社のミッションに合わず、ブランドとも違う事業は、続ける理由が弱くなります。
物差しの順番を決めておけば、迷ったときに何を優先するかで悩まずに済みます。
顧問先の経営者には、新しい取り組みを始めるときは、やらない取り組みを1つ決めましょう、とお話ししています。
もちろん例え話です。
ただ、私自身も結果的に、1つ新しい取り組みを始めるときは、1つやめる決断をしています。
やめる基準がないまま新しい取り組みを足し続ければ、人も資金も分散し、どの事業も中途半端になります。
すべての会社に、同じ物差しが当てはまるわけではありません。
それでも、自社の物差しを言葉にしておけば、決断は遅れにくくなります。
まず、いま続けている取り組みを1つ選び、あなたの決めた物差しに当てはめてみてください。
新しい挑戦を続ける経営者ほど、やめる決断に悩みます。
それは、事業に真剣に向き合っている証拠です。
あなたの会社では、やめる物差しをいくつ言葉にできていますか。
【出典】東洋経済オンライン「NGK小林社長「半導体製造分野に集中投資する」…世界初のNAS電池から撤退、社名から祖業のガイシを外す真意を直撃」(2026-10-08)


