事業を手放す判断は、苦しくなってから考えればよいと、先送りにしている会社があります。
しかし、苦しくなってからの売却は、足元を見られやすく、選べる相手も限られます。
そのため、決断が遅れた会社ほど、条件を選べなくなります。
2026年10月16日、三菱電機は鴻海精密工業と最終契約を結びました。
自動車機器子会社の三菱電機モビリティの株式50%を、鴻海傘下の投資管理会社に譲渡する内容です。
譲渡価額は1,150億円です。
2027年10月に完了する見込みで、その後は両社が折半出資で共同運営します。
三菱電機は、この取引で約1,000億円の減損損失を計上する見通しです。
注目したいのは、苦しくなってからの売却ではない点です。
この事業は、2021年3月期から3期連続で営業赤字でした。
しかし足元では回復しており、調整後営業利益率は2026年3月期の5.7%から、2027年3月期は9.3%に改善する見通しです。
三菱電機自体も、4期連続の過去最高益を見込んでいます。
三菱電機モビリティの幹部は、双方に余裕がある今だからこそ、スピーディーに合弁化を決断できたと説明しています。
価格も後押ししました。
ダイヤモンド・オンラインによると、三菱電機は投資ファンドへの売却も視野に入れていましたが、鴻海の評価額はファンドを上回ったそうです。
ただし、理由は価格だけではありません。
背景には、構造的な三重苦があります。
第一に、主要顧客のホンダ、日産自動車、三菱自動車が、そろって販売不振に陥っています。
第二に、中国系サプライヤーが台頭し、日系の完成車メーカー自身も中国製部品の採用を増やし始めました。
第三に、完成車メーカーごとの個別開発を前提とする事業構造が、利益を生みにくくなっています。
幹部は、1次下請けの部品メーカーは全くもうからない商売になっていると語っています。
つまり、数字が回復していても、事業の土台が傷んでいれば、一時的な回復に終わる可能性があります。
鴻海精密工業と組む狙いも、手放すだけではありません。
完成車メーカーごとに異なる仕様を共通化し、世界の複数のメーカーに部品やシステムを供給する構想を掲げています。
個別の注文に応じる下請けから、サプライヤー側が共通の技術基盤を提案する立場へ移る発想です。
手放すのは、撤退のためではなく、次の稼ぎ方に移行するためです。
ここから、手放す時期を見極める物差しは、3つに整理できます。
1つ目は、今の数字ではなく、事業の構造が続くかどうかを見る点です。
2つ目は、今の稼ぎ方が通用しなくなったとき、自社だけで次の手を打てるかどうかを見る点です。
3つ目は、交渉力が残っているうちに動く点です。
私も、前職の社長時代に、他社と組む判断をしてきました。
自社だけで全てをこなすのは、不可能です。
そのため、大きな仕事を取るには、他社と組む選択が前提だと考え、実行しました。
これは、特定のお客様1社に依存した安定的な事業を継続する、元上司の方針とは全く違う考え方でした。
創業者から社長を拝命したとき、有能な会社と提携し、大きな仕事を取り込んでいく方針を決意しました。
あわせて、事業領域を広げるために、違うジャンルの人材を採用しました。
一つ一つ、事業領域の広い会社へと変えていきました。
主要クライアントのお得意様と、タッグを組んで仕事をするビジネスモデルも展開しました。
仕事をランクアップさせるには、自社だけで完結するのは難しいです。
互いの能力を補完し合える関係なら、なおさら組む意味があります。
ただし、注意点が1つあります。
組む相手と、ミッションや仕事に向き合う姿勢、方向性が合っているかどうかです。
ここが大きく違えば、いずれは解散するか、どちらかが離脱します。
そのため、組む前に、この点だけは確認する必要があると考えています。
単一の会社だけでは成長が難しい場合、強みを補完し合う企業と組むのは、有力な選択肢です。
守りを固めるだけでなく、さらなる成長も期待できると、私は考えています。
もちろん、この決断が成功するかは、まだ分かりません。
譲渡は関係当局の許認可が前提で、共同運営が実際に機能するかは、これから問われます。
また、半分を手放す決断は、主導権の一部を手放す決断でもあります。
好調なときほど、まだ自力でやれると考え、決断は遅れます。
その遅れの代償は、業績が下がってから、一度にやってきます。
中小企業には、三菱電機のような規模や余力はありません。
それでも、事業をすべて売るか、すべて続けるかの二択ではありません。
一部を手放す、他社と組む、任せるといった選択肢があります。
まず、いま好調な事業を1つ選び、3年後も自社だけで勝てる構造かを、紙に書き出してみてください。
好調なときに先を考えるのは、勇気がいります。
しかし、それは経営者にしかできない仕事です。
あなたの会社の好調な事業は、3年後も同じ稼ぎ方が通用しますか。
【出典】三菱電機プレスリリース(2026-10-16)、ダイヤモンド・オンライン「三菱電機が鴻海を選んだ理由は「高値」だけではない、自動車事業の提携で日台連合が狙う「下請けピラミッド」の解体」(2026-10-20)


