【赤字転落から最高益へ。給与削減で雇用を守った、ぴあ社長に学ぶ、苦しいときに集中する一点の決め方とは。】
好調なときと同じ戦い方を、苦しくなってからも続けている会社があります。
しかし、苦しいときに何も絞らなければ、人も資金も薄く広がり、打てる手を失います。
そのため、危機の入り口で経営者が決めるのは、何を守り、どこに集中するかです。
2026年10月27日、日経ビジネスは、ぴあの矢内廣社長の判断を報じました。
見出しには「覚悟の給与削減」とあります。
ぴあは、音楽やスポーツ、舞台などのチケット販売で国内最大手です。
約5年前、コロナ禍で公演や試合の中止が相次ぎ、赤字に転落して経営危機に陥りました。
記事によると、矢内社長は給与削減に踏み切り、雇用を守る覚悟を示しました。
再起を信じて耐えた社員の結束が、復活の背景にあったと伝えています。
2026年3月期は、営業利益と純利益がともに過去最高を更新しました。
この経験が、チケット販売への依存から脱する取り組みを加速させたとも報じています。
2026年7月13日の財界オンラインによると、矢内社長は、最初に長期資金を確保しました。
社員のリストラは行わず、役員報酬を社員より先に削りました。
続いて、やむを得ず社員の賞与と報酬も削り、約350人の社員全員から同意書を取っています。
経営会議では、報酬カットを最後の砦とする意見も出ました。
しかし、矢内社長は、「最後の砦は報酬カットではなくリストラです」と答えたそうです。
ここで注目したいのは、守る対象と手順の順番です。
資金を確保し、雇用を守ると決め、役員報酬から削るという順番です。
私は、経営者向けのセミナーを名古屋で100回以上実施してきました。
そこで繰り返しお伝えしたのは、「入るを量りて出ずるを制す」という故事に習った考え方です。
収益の見通しを前提に、経費や投資を考えるという原理原則です。
これは苦しいときだけでなく、どんな局面でも変わらない経営の基本だと考えています。
先が読めない時代です。
だからこそ、経営者は何をするにも、良いシナリオと悪いシナリオの両方を用意しておく必要があります。
ここから、苦しいときの判断の物差しを、3つに整理します。
1つ目は、収益の見通しから、使える経費の上限を決めているかどうかです。
ぴあが最初に長期資金を確保したのも、同じ発想だと私は読みます。
2つ目は、好調なときに、次の手を打っているかどうかです。
好調なときは、新たな事業展開や社員の育成強化、採用といった手が打てます。
3つ目は、苦しいときに、集中する一点を決められるかどうかです。
好調なときは、ある程度広い範囲で攻められます。
しかし、苦しいときは、それが叶いません。
かといって、何もしなければジリ貧になるのは、火を見るより明らかです。
そのため、苦しいときは、集中する一点を何にするかが決定的に重要になります。
ただし、削るだけでは、会社は縮んでいきます。
雇用を守る決断は、次の稼ぎ方を考える時間を買うための決断です。
ぴあも、給与削減で止まらず、チケット依存から脱する取り組みへ進んだと報じられています。
守る決断だけで終われば、問題を先送りしただけになります。
もう一点あります。
集中する一点は、経営者が一人で考えても、なかなか見つかりません。
苦しいときほど、視野は狭くなり、悪いシナリオばかりが頭に浮かびます。
コンサルタントのような社外の立場の人は、経営者より冷静に物事を見られます。
お互いの考えや意見を交わす間に、良案が浮かぶ場面を、私は何度も見てきました。
もちろん、すべての会社に一点集中が当てはまるわけではありません。
給与削減は、社員全員の納得があってはじめて成り立つ判断です。
矢内社長も、「1人でもサインしない人がいるとできません」と語っています。
役員が先に身を削り、日頃から信頼を築いていなければ、同意は得られません。
また、ぴあと中小企業とでは、規模も余力も異なります。
それでも、何を守り、どこに集中するかを先に決める順番は、会社の大きさに関係なく使えます。
まず、良いシナリオと悪いシナリオを1つずつ描き、悪いシナリオで集中する一点を考えてみてください。
苦しい局面を、経営者が一人で抱え込む必要はありません。
あなたの会社が最も苦しくなったとき、集中する一点は何ですか。
【出典】日経ビジネス「ぴあ矢内社長 覚悟の給与削減で雇用守る 赤字転落・経営危機から最高益へ」(2026-10-27)、日経ビジネス「ぴあ矢内社長 チケット依存脱しエンタメ文化創造企業に 国宝監督も発掘」(2025-10-30)、財界オンライン「ぴあ社長・矢内 廣《総合エンターテインメント企業のぴあが雑誌ぴあを15年ぶりに復刊》」(2026-07-13)


