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ブログ / 実践経営戦略ノート

第53話 賃上げを決める前に、粗利を決める。人件費高騰の倒産が130件に達した今、何を計画に入れるか?

2026年10月19日 執筆:渡邉ひとし

賃上げを決めたのに、その原資を何円の粗利で賄うのかは、決めていませんか。

人件費は、一度上げると簡単には下げられません。

そのため、原資の裏付けがないまま上げた賃金は、のちに資金繰りへ重くのしかかります。

東京商工リサーチが2026年10月5日に公表した調査では、2026年度上半期(4〜9月)の人手不足倒産が240件でした。

前年同期比17.0%増で、2013年の調査開始以来、年度上半期として最多です。

しかも、5年連続で前年同期を上回っています。

注目したいのは、内訳です。

人件費高騰を要因とする倒産は130件で、前年同期比75.6%増と、約1.7倍に膨らみました。

人手不足倒産の54.1%を占め、半数を超えています。

業種別では、サービス業他が91件、建設業が55件で、2業種で60.8%を占めました。

資本金1千万円未満の企業も159件で、全体の66.2%です。

東京商工リサーチは、大手と中小・零細企業の賃金格差が広がっている点や、賃上げ疲れが表面化している点を指摘しています。

サービス業や建設業のように、人の数が売上に直結する業種ほど、賃上げの負担が重くなります。

つまり、人を確保するために賃金を上げざるを得ない一方で、その負担に耐えきれない小さな会社が増えているわけです。

賃上げを続ける難しさは、日本全体の付加価値の低さとも無関係ではありません。

日本生産性本部が2025年12月に公表した調査では、2024年の日本の就業者1人あたり労働生産性は98,344ドルでした。

OECD加盟38か国中29位で、主要先進7か国では最下位が続いています。

就業1時間あたりでも60.1ドルで、38か国中28位です。

1人が生み出す付加価値が小さいままでは、増えた賃金を、利益で吸収できません。

つまり、賃上げと、1人あたりの付加価値を高める取り組みは、切り離せないのです。

もちろん、倒産の理由は人件費の高騰だけではありません。

しかし、賃上げが避けられない局面で、計画に原資の裏付けがない会社ほど危うい、と私は考えています。

賃上げを決めても、粗利の目標が前年の延長のままでは、増えた人件費を埋める道筋がありません。

では、人件費の上昇を、事業計画にどう織り込めばよいのでしょうか。

私は、取引先や顧問先の中小企業の経営者の方に、賃上げや人件費の上昇を、経営計画へ必ず盛り込んでいただいています。

ただし、盛り込むだけでは足りません。

その人件費を確保するために、全体の粗利(売上から売上原価を引いた額)をいくらに設定するのかを、計画の当初に厳密に組み込みます。

つまり、粗利の目標は、人件費を賄うための前提条件です。

そのためには、売上の伸びだけでは不十分です。

粗利をどれだけ設定できるかが、重要な要点になります。

そして、その粗利を確保する戦略は、事業ごとに異なります。

一つ一つの事業に特有の経営戦略を考える必要があります。

外部環境を鑑みたうえで、どのような戦略が可能なのかを見極めます。

次に、その粗利をどう確保するのかを、毎月PDCA(計画、実行、確認、改善)で厳密に点検します。

年に一度の決算で粗利の不足に気づいても、打てる手はすでに限られているからです。

しかし、点検するだけでは意味がありません。

粗利が足りないとき、どのような営業戦略をとるのか。

どのような経営戦略を選択するのか。

この議論を、毎月のPDCAの場で、社内でしっかり行い、決定していきます。

その場でのコンサルタントのファシリテーションは、戦略を新たに生み出す考え方や手法に関わります。

経営層と社員、そしてコンサルタントのノウハウを加味しながら、新たな軌道修正を行います。

数字の報告会で終わらせず、次の一手を生み出す場にする点が肝心です。

経営者の頭の中だけで考えると、手段は過去の延長に偏りがちです。

異なる立場の知恵が加わるから、新しい戦略方法が生まれます。

事業の違いは、業種の違いにも表れます。

メーカーの場合と商社の場合では、方向が違います。

したがって、1人あたりの生産性をどこまで上げるのかという戦略も、欠かせない要素です。

1人あたりの生産性が上がらないまま賃上げを続ければ、粗利を削り続けます。

賃上げは、人を確保して会社を続けるための投資です。

投資である以上、回収する道筋を、計画の中に持たなければなりません。

もちろん、すべての会社に同じ型が当てはまるわけではありません。

業種や規模によって、粗利の設計は変わります。

もし今、賃上げの計画があるなら、まず、その原資にあたる粗利がいくら必要なのかを、紙に書き出してみてください。

その数字が、毎月のPDCAの出発点になります。

賃上げを続けられる粗利を、あなたの会社はどう確保しますか。

【出典】東京商工リサーチ TSRデータインサイト「年度上半期の人手不足倒産 過去最多の240件 深刻な賃上げ疲れ、賃上げ倒産が1.7倍に増加」(2026年10月5日)、日本生産性本部「労働生産性の国際比較2025」(2025年12月22日)

渡邉ひとし
渡邉 ひとし株式会社未来デザインカンパニー 代表取締役/持続型経営コンサルタント

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