事業承継のタイミングを、社長の胸三寸で決めていませんか。
その決め方では、気づいたときには時間が足りなくなります。
東京商工リサーチの調査では、2026年1〜8月の後継者難倒産が355件でした。
前年同期比17.1%増で、調査を開始した2013年以降で最多です。
同じ調査で、2025年の社長の平均年齢は63.81歳でした。
前年の63.59歳から、さらに上がっています。
社長が高齢になるほど、後継者を育てる時間は短くなります。
しかも、後継者の有無は金融機関の融資審査で確認され、取引先の与信判断にも関わります。
つまり、承継の準備は、会社の信用に直結する経営課題です。
税制の支援も用意されています。
法人版事業承継税制の特例措置では、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日まで延長されました。
一方で、この計画の提出件数は、2023年度の5,546件から、2025年度は2,264件に減っています。
件数だけでは、理由を断定できません。
ただ、制度が用意されていても、承継の準備が進んでいるとは限らない点は、見ておく必要があります。
私は、社長と経営陣が高齢になった段階で、承継の相談を受けた経験があります。
そこで痛感したのは、高齢になるほど、承継に使える時間が減る現実です。
渡す側は、バトンを渡すために何をすればよいのかが、分からなくなります。
受ける側も、なんとなく自分だと感じていても、覚悟ができていません。
この覚悟の重さは、私自身が経験しています。
前職で、創業者から社長への就任を命じられたとき、必要なのは知恵と勇気と覚悟だと言われました。
10年以上取締役を務めていても、社長とナンバー2以下の役員では、見える世界がまるで違います。
背負う責任も違うと言われ、就任してすぐに、その言葉を実感しました。
つまり、後継者の覚悟は、承継の直前に急に整うわけではありません。
では、承継はいつ行えばよいのでしょうか。
早ければ早いほどよい、という単純な話ではありません。
社長と後継者の年齢だけでなく、その会社が承継に適した時期かどうかも、大事な条件です。
だからこそ必要なのが、未来からの逆算です。
私がいつも提唱しているのは、先に未来の目標を掲げ、そこから逆算して、数年後の姿を描く方法です。
現在からの積み上げで考えると、承継の時期は、社長の胸三寸になります。
胸三寸で決める限り、時期は先送りになりやすくなります。
一方、未来から逆算していれば、承継に適した時期を、計画の中で測れます。
そのうえで、現在の社長が、その時期に向けて会社を整え、承継していきます。
この形が理想です。
具体的には、まず10年後に会社がどうありたいかを決めます。
次に、その姿の中心となる人に、どんな役割を任せたいのかを描きます。
そして、後継者の育成に必要な年数を、逆算して計画に置きます。
計画の最初に置くのは、承継の日付ではなく、育成の開始時期です。
計画的に行っていれば、事業承継の問題は、ほぼ起きないと言っても過言ではありません。
もちろん、すべての会社に同じ時期が当てはまるわけではありません。
それでも、相談を受けた経営者の方には、「早いほうがよい」とお答えしました。
承継しても、後継者に完全に任せきれるわけではないからです。
社長に年齢的、肉体的、精神的な余力があれば、新しい社長を十分にカバーできます。
そのカバーを続けられる期間も、長く保てます。
そのため、余力があるうちに承継されてはどうかと、提案しました。
その経営者の方は優れた方で、短期間のうちに実行されました。
承継後の会社は、右肩上がりで成長を続けています。
会社は、続いていきます。
だからこそ、事業承継は、経営に欠かせない課題です。
私のメソッド『持続型黒字経営3ステップ構築法』も、この考え方の上に成り立っています。
日本には、100年以上、200年以上続く長寿の会社が多くあります。
世界でも稀な実績で、計画性を持った承継を重ねてきた結果だと考えています。
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉があります。
これはドイツの鉄血宰相と呼ばれたオットー・フォン・ビスマルクの格言です。
歴史に学ぶなら、承継は早く計画し、準備していくのが王道です。
もし今、承継の時期を決めかねているなら、まず10年後の会社の姿を、考えてみてください。
そこから逆算して、バトンを渡す時期を置いてみると、次の一手が見えてきます。
社長が一人で抱え込む必要はありません。
10年後の姿から逆算して、あなたの会社が承継に踏み出す時期は、いつでしょうか。
【出典】東京商工リサーチ TSRデータインサイト「増加をたどる法人版事業承継税制の活用 ~ 内容と留意点の確認を ~」(2026年10月17日)


