定年後の処遇を、会社から説明される日まで考えない50代は、判断の材料を会社に握られたまま、条件を受け入れる結果になります。
ミドルシニア世代は、定年後の自分の役割を、言葉にできているでしょうか。
日本経済新聞は2026年9月30日、再雇用の賃金に関する指針の改正を報じました。
定年後に、有期雇用や嘱託で再雇用される人も、同一労働同一賃金のルールの対象です。
改正された指針は、2026年10月1日から適用されています。
指針は、給与や手当の待遇差を、その性質や目的に照らして総合的に考慮して判断すると示しています。
また、有期雇用だという理由だけでは、待遇差を設ける合理的な理由にならないとしています。
つまり、会社は再雇用者の給与を減らす場合、合理的な説明を求められます。
記事では弁護士の助言として、仕事内容や配置が再雇用前と同じなら、一律の減給は避けるべきだと紹介されています。
社員にとっては追い風です。
ただし、このルールが求めているのは、『説明』でしかありません。
賃金を下げられなくなるわけではありません。
仕事内容や責任が変われば、合理的な理由があるとして、給与が下がる場合もあります。
そのため、これだけで安心はできません。
会社が説明するのは、仕事内容や責任がどう変わるかという、会社側の整理だからです。
本人が何を担えるのかを示さなければ、役割の設計は、会社の説明に沿って進みます。
説明を受ける側が、自分の経験を整理していなければ、反論も提案もできません。
納得できない条件でも、材料がないために、そのまま受け入れる人が出てくる可能性があります。
私は、この変化を、定年の延長が続く流れの中の、一つの場面と見ています。
私は大学の講義で、戦後の日本では、定年の延長がおよそ15年の周期で進んできたと説明しました。
そのうえで、2050年には定年が80歳になるという見立てを、学生に示してきました。
延長を後押ししてきたのは、平均寿命の上昇と人手不足だと見ています。
周期は年によって幅があり、あくまで私の見立てです。
それでも、制度は延びてきました。
講義資料には、従来の雇用制度の崩壊と、生涯設計が不可欠な時代だとも書きました。
会社が守ってくれる前提は、すでに崩れ始めています。
2013年度には、希望者全員を対象に、65歳までの雇用を確保する措置が企業に求められるようになりました。
2021年4月には、70歳までの就業機会を確保する措置が、企業の努力義務になりました。
70歳までの措置を実施済みの企業は34.8%で、約3分の2の企業は未実施です。
ですから、70歳定年は、制度として確定した話ではありません。
しかし、企業が目指す努力目標として、すでに広く認知される段階に入っています。
次は75歳、その先は80歳へと延びていくと、私は考えています。
定年が延びるほど、50代から先に働く期間は長くなります。
その長い期間の役割を、会社の説明に任せたままにすると、どうなるでしょうか。
会社の都合だけで決まった役割に、自分の経験を合わせる結果になります。
再雇用の賃金に説明が必要になっても、そもそも説明できる材料が本人にないままでは、話し合いになりません。
ですから、50代のうちに、自分の経験を言葉にしておく必要があります。
最初の一歩として、これまで任されてきた仕事を振り返ってください。
その中から、会社を離れても通用する経験を選び、言葉にしてみてください。
会社の評価とは別に、自分の経験が誰の役に立つのかを考えてみてください。
その経験は、定年後の役割を話し合う場で、あなたを支える材料になります。
この指針は、経営者の方にも関係します。
再雇用者の役割を決めないまま賃金だけを下げると、説明に窮します。
社員が自分の経験を言葉にして臨めば、役割の設計は、双方にとって進めやすくなります。
会社が説明を始める前に、あなたはどんな役割を担いたいですか。
その経験、地域の企業を支える力になるかもしれません。
長く働く時代を、ご自身の経験とともに歩むあなたを、心から応援しています。
【出典】日本経済新聞「高齢者の再雇用、給料カット理由説明必要に 同一労働・賃金指針改正」(2026年9月30日掲載)、厚生労働省「令和7年『高年齢者雇用状況等報告』の集計結果を公表します」(2026年6月1日公表)


