多くの経営者は、組織を変えようとするとき、一斉に号令をかけたくなります。
全社会議で方針を発表し、その場では誰もがうなずきます。
しかし数週間もすると、現場は元のやり方に戻っていきます。
一度の号令では、組織はなかなか変わりません。
日経ビジネスに、この構造に正面から手を付けた企業の記事が載っていました。
富士通は2024年6月、新卒の一括採用を廃止すると宣言しました。
年間の採用人数をあらかじめ定めず、職種と人材要件を示して通年で募る方式に転換しています。
有償インターンも、約20テーマから400テーマへと大きく広げました。
記事では「母集団が欲しければ一括採用がよいが、もう数の議論はしたくない」という方針が紹介されています。
2026年4月には、この新しい制度のもとで第一期生が入社しています。
同じ記事では、ENEOSが事務系やIT企画の採用を見送り、単体で約2割削減したとあります。
クボタも大卒採用を7割削減するなど、他社でも採用の量を絞る動きが紹介されています。
一括採用は、年に一度、決まった時期に大量の人を動かす仕組みです。
これは、組織変革でよく見る「一斉号令型」の縮図だと感じています。
号令をかけた瞬間は勢いがあっても、その後の継続が難しいという点で、構造が似ています。
一方、通年採用は、必要なタイミングで少しずつ人を迎え入れる仕組みです。
一度に大きく動かすのではなく、仕組み自体を変え続ける発想に近づきます。
私が支援してきた、ある顧問先も、以前は同じ勘違いをしていました。
号令さえかければ、社員は思い通りに動くはずだという思い込みです。
今はその会社も、理想に近い組織の形に変わっていますが、そこに至るまでに実行した取り組みがあります。
一つ目は、一度の指示だけで完璧に伝わるとは考えない前提です。
同じ内容でも、何度も繰り返し説明する必要があると、経営者に伝えました。
二つ目は、伝え方を相手に合わせる姿勢です。
自分の話し方を押し通すのではなく、相手の特性やタイプに合わせて伝え方を変えます。
三つ目は、毎朝の朝礼を続ける取り組みです。
朝礼では、会社のミッション・ビジョン・バリューを毎回唱和します。
社員の中から日替わりで選ばれた一人が、最近、気づいた点を話します。
その話を受けて、社長自身の思いを自分の言葉で伝えます。
この朝礼を、毎日欠かさず続けてもらいました。
四つ目は、外部の支援者を入れる判断です。
自社だけで、経営者と社員の認識のずれを解消するのは、簡単ではありません。
号令をかける側と受け取る側の間に立つ、第三者の視点が要ると考えています。
私はファシリテーターとして、ホワイトボードに双方の意見を書き出します。
そこに、経営理論やスキル、法則もあわせて書き加えます。
そのうえで、全員が納得できるまで議論を重ねます。
一回や二回で組織が変わるとは考えず、1年、2年とかけて積み重ねてもらいました。
社員には個人差がありますが、指示を半分しか受け止めなかった段階から、少しずつ変わっていきます。
自分で考え、自分から提案し、自分で実行する、自走型の社員へと育っていきました。
経営者に必要なのは、才能よりも、同じ説明をどれだけ繰り返せるかという覚悟だと感じています。
一度や二度伝えて響かなくても、それで諦めていい理由にはなりません。
富士通が一括採用という「年に一度の大号令」をやめたのも、同じ構造の選択に見えます。
採用のあり方を、一度の意思決定ではなく、継続する仕組みに変えたと言えます。
半年に一度の全社会議で方針を伝えるだけでは、現場は変わりません。
もちろん、号令自体が不要というわけではありません。
方向性を示す号令と、日常を変える仕組みは、両方そろって初めて機能します。
号令だけで仕組みを変えないままだと、現場は「また言っているだけ」と受け止めてしまいます。
ここに、経営者にとって耳の痛い現実があります。
変革がうまくいかない会社の多くは、号令の回数を増やして解決しようとします。
しかし、号令を重ねるほど、社員は聞き流す構えに慣れていきます。
必要なのは、号令の頻度を増やす発想ではなく、日常の仕組みを変える設計です。
すべてを一気に変えようとするほど、現場の抵抗は強くなり、結局は元に戻りやすくなります。
小さな仕組みの変化を積み重ねる方が、遠回りに見えて、実は着実に定着します。
もちろん、緊急性の高い課題であれば、号令で一気に動かす判断が必要な場面もあります。
すべてを小さく積み重ねればよいというわけではありません。
ただ、多くの中小企業が抱える組織変革の停滞は、緊急の危機ではなく、日常の運用が古いまま放置されている点に原因があります。
あなたの会社の組織変革は、号令で終わっていませんか。
それとも、日常の仕組みとして、少しずつ積み重ねられていますか。
【出典】日経ビジネス「AI時代、新卒採用4割減へ 大企業が進める『厳選採用』の実像」


