【管理職が部下の数字で報われる会社は、不正を止められない。プルデンシャル生命保険の報告書に学ぶ、評価項目の決め方とは。】
評価と報酬の設計を変えないまま、会社の風土だけを変えようとしても、現場は動きません。
プルデンシャル生命保険の不正を巡る報告書が、その理由を具体的に示しました。
同社は2026年10月8日に、社外特別調査委員会の調査報告書を公表しました。
金銭授受は、顧客の申告ベースで61億6,660万円に上ります。
会社は、関わった社員と元社員の計157名を処分しました。
報告書は、原因を一部の社員の資質だけに求めていません。
ビジネスモデル、営業成績を過度に重視する企業風土、現場の管理の弱さ、本社のガバナンスが重なった構造的な問題だと位置づけています。
報告書が重く見たのは、制度の設計です。
報酬、表彰、資格、採用のすべてが、営業成績を中心に設計されていました。
顧客保護やコンプライアンスも評価の要素ではありましたが、比重は限定的でした。
その結果、成績の高い担当者には、問題の兆候があっても厳しい指導がしにくくなっていたと、報告書は指摘しています。
さらに注目したいのは、管理職の報酬です。
営業管理職の報酬は、管理下にいる営業社員の成績に連動して計算されていました。
日本経済新聞に掲載された人事コンサルタントの城繁幸氏のインタビューは、この点を突いています。
城氏は、不正を見逃す方が得になる構図で、制止できていなかったと述べています。
管理職が部下の数字で報われるなら、不正を止める側には回れません。
報告書には、これを裏づける事実もあります。
2026年2月から新規契約の募集を自粛していた期間に、募集禁止の指示に違反した社員が延べ37名いました。
そのうち33名は支社長です。
会社は、周知不足や誤解が原因だと説明しています。
ただし、現場を管理する立場の人が違反した事実からは、管理職にも数字を追う動機が強く働いていた可能性が読み取れます。
会社は、2027年の導入に向けて制度を見直しています。
最低保証給を導入し、アフターサービスの報酬比率を5%未満から約20%へ引き上げます。
営業管理職は、採用人数に連動する報酬を廃止し、自分の保険販売を原則として認めません。
呼びかけや研修ではなく、評価と報酬の設計に、直接手を入れているのです。
これは、大企業だけの話ではありません。
売上や粗利だけで管理職を評価している中小企業にも、同じ構図は生まれます。
数字の良い社員に意見を言いにくくなり、管理職は部下の数字を守る側に回ります。
もちろん、すべての会社が同じ結果になるわけではありません。
それでも、評価が行動を決めるという原則は、会社の規模を問いません。
では、評価項目を何にすればよいのでしょうか。
評価制度の見直しでは、この問いが最初に出ます。
しかし、項目を洗い出しても、そこで終わりません。
次に、どの項目を優先するかを決める必要があります。
さらに、点数をどうつけるか、社員の間でどう差をつけるかも課題になります。
城氏は、短期の数字とは別に、コンプライアンスや長期の貢献を相応の比重で加えるべきだと述べています。
営業所長の評価には、部下のトラブル件数や顧客満足度の項目も入れるべきだという指摘です。
方向性は参考になります。
しかし、比重を何%にするか、点数をどうつけるかは、会社ごとに変わります。
評価制度の相談を受けるたびに、私はいつも同じ話をしています。
インターネットで検索すれば、参考になる評価項目の例は数多く出てきます。
しかし、それをそのまま使っても、意味がありません。
評価項目は、自社の企業文化、ミッション、バリューから考えます。
さらに、組織の形、社員の育成レベル、業種、業界内の常識も加味します。
これらを総合して、自社だけの評価項目を生み出す必要があります。
どこかで見つけた模範例に、無理に合わせようとして、経営全体がおかしくなる会社も少なくありません。
だからこそ私は、主だった幹部社員の方と経営層、そして私の三者で、ゼロから作り上げます。
現時点では、これが最も正しい進め方だと考えています。
評価項目、優先順位、点数のつけ方(減点、加点)、差のつけ方を一つずつ検討し、最終的な結論を出していきます。
評価を見直そうとする経営者の姿勢は、社員を守る第一歩です。
今の評価制度で、一番高く報われているのは、どんな行動でしょうか。
それは、会社が本当に増やしたい行動と、同じでしょうか。
【出典】日本経済新聞「プルデンシャル不正、現場はなぜ暴走したか 労働・人事の専門家に聞く」(2026-10-21)、プルデンシャル生命保険「社外特別調査委員会による調査報告書の公表およびお客さま本位の業務運営の徹底に向けた取り組みについて」(2026-10-08)、プルデンシャル生命保険 社外特別調査委員会「調査報告書(開示版)」(2026-10-03)


