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ブログ / シン組織変革の教科書

第62話 手挙げ制の成否は、手を挙げない8割で決まる。中外製薬の実績に学ぶ、経営者が整える条件とは。

2026年10月30日 執筆:渡邉ひとし

社員が手を挙げるのを待つだけの会社は、人材を眠らせたまま、成長の機会を逃しています。

しかし、手挙げ制を導入すれば解決する、という話でもありません。

中外製薬は、2025年1月から、異動を原則として手挙げ制に切り替えました。

空きポジションの要件を社内に公開し、社員が自分で応募する仕組みです。

同社は、社員の主体性と挑戦を後押しするために、この制度を導入しました。

日経ビジネスは、組織は人材を個人任せにしてはならない、という視点で、この制度を取り上げています。

2025年上半期には、全社員の約2割が応募しました。

応募は延べ1,662件で、687人が合格しています。

全異動のうち、約68%が手挙げで決まりました。

一般社員が、最大4段階の飛び級で昇進した例もあります。

自ら給与レンジ(上限と下限の幅)を下げてまで、新しい仕事に応募した社員も、数十人いたと報じられています。

奥田社長は、社員が自分でキャリアを考え始めた点が背景にある、と見ています。

人事を担当する矢野氏は、上司と部下が互いに選び合うため、決まった人の意欲は非常に高いと語っています。

ただし、この数字には裏側があります。

手を挙げたのは約2割で、残りの約8割は手を挙げていません。

NewsPicksによると、手挙げをしなければ、上位のポジションには就けません。

選ばれなかった社員の意欲をどう保つか、突然部下がいなくなる部署にどう対応するか、という課題も報じられています。

NewsPicksは、現状維持の社員への対処が、改革の副作用として避けられないとも指摘しています。

さらに、OpenWorkの大澤社長は、同社の最近の評価に、変化への拒否反応が一部見られると説明しています。

奥田社長は、手を挙げなかった社員とは、上司との対話で考えを引き出したいと話しています。

手を挙げた人だけが伸びる会社になれば、手を挙げない約8割の力は、置き去りになります。

つまり、手挙げ制の成否は、手を挙げない社員に、経営者や上司がどう向き合うかで決まります。

私にも、手を挙げる前に声をかけた経験があります。

前職の社長時代に、最大手のクライアントから、DXを担う人材が少ないため力を貸してほしい、と打診を受けました。

私は、この人にお願いしたいと考えた社員に、1対1で話をしました。

将来のキャリア形成に、大変有力な経験になると伝えました。

内容は、本人がそれまで従事してきた職域を超えるため、本人にとっては挑戦です。

一方で、最大のクライアントの中に入り、最先端の内容を一緒に作り上げる経験は、私自身が体験したいほど、わくわくする内容でした。

ただし、強引に説得するつもりはありませんでした。

将来の希望や夢、可能性について、提案をしたのです。

本人が、100%理解して承諾した、という反応は見えませんでした。

それでも、最終的には了解を得られました。

この機会は、手挙げでは生まれませんでした。

打診を受けた私が、本人への声掛けから始まりました。

出向から3か月ほどで、具体的な成果が見え始めました。

本人も、自分の実力に確信を持ち始めていました。

その後、この領域で自分の活躍の場を広げたい、という願望が出てきました。

半年後には、出向先のチームにも打ち解けていました。

最終的には、そのクライアントのグループ会社に転職しました。

社内に残る形ではありませんでしたが、本人の領域は確実に広がりました。

手を挙げる意欲は、機会に出会って初めて、本人の中に生まれる場合があります。

声をかけられた側は、すぐには納得しないかもしれません。

それでも、声をかけて将来の可能性を示せば、動き出す人がいます。

一方で、自ら手を挙げる社員もいます。

ある顧問先では、それまで生産部門で働いていた方が、営業部門の補強のために、自ら手を挙げました。

生産部門の仕事を続けながら、営業部門でも仕事をする、という内容でした。

最終的には、経営者の判断で、その方は執行役員になりました。

本人は、違う領域も含めて、会社の全体を見渡せるようになりました。

さらに、生産部門の方々が、一段上の仕事を志すようになりました。

結果として、生産部門の生産性を高めるきっかけにもなりました。

一人の手挙げが、周囲の意欲にも影響したのです。

ただし、この流れは、手を挙げた方を受け止め、役割と処遇で応えた経営者の判断があって成り立ちました。

もちろん、中外製薬は社員が約7,800人の大企業です。

約2,000種のポジションを定義した仕組みを、そのまま取り入れるのは中小企業には難しいはずです。

中小企業が先に整えるのは、仕組みよりも、対話です。

第一に、経営者が、社員一人ひとりの将来の希望を、1対1で聞きます。

第二に、機会を示すときは、会社の都合だけでなく、本人の将来にどうつながるかを伝えます。

第三に、手を挙げなかった社員にも、選ばれなかった社員にも、考えを聞き、理由を伝えます。

仕組みは後からでも作れますが、対話は今日から始められます。

あなたの会社には、まだ手を挙げていないだけの人材が、いませんか。

その人に、最初にかける一言は何でしょうか。

社員の可能性を信じて声をかける経営者を、私は応援しています。

【出典】日経ビジネス「人事制度改革で異動を手挙げ制に 4段階飛び級も降級も、異能を生かす組織術」(2026-10-23)、NewsPicks「【年収1200万】トップ1%。昭和企業の人事改革がすごい」(2025-10-07)、ミクスOnline「中外製薬 1月導入のジョブポスティングに延べ1662件の社員応募 687人が合格 奥田社長CEO」(2025-07-29)、ビジネスインサイダー「手挙げで4段階飛び級昇進も。中外製薬、奥田社長語る手応えと課題」(2025-07-30)、労働新聞「昇格含め“異動”を公募制に 非管理職も職務等級 中外製薬」(2025-03-06)、中外製薬「新人事制度導入のお知らせ」(2025-01-06)

渡邉ひとし
渡邉 ひとし株式会社未来デザインカンパニー 代表取締役/持続型経営コンサルタント

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